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それぞれの門出
【13】
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あまねくんは右手を高々と上げて「すぐに戻ってきます!」と言った。
皆が半ば呆れている中、慌ただしくあまねくん、茉紀、子供達は家を出ていった。
「戸塚さん、主人がすみません……」
羞恥心を抱きながら戸塚さんに頭を下げた。
「いえいえ、愛妻家の素敵な旦那さんだと思いますよ。俺も先輩として鼻が高いです」
ははっと気にする様子もなく笑う戸塚さん。本当にいい先輩だなぁと感心する。
私は、戸塚さんをダイニングチェアに案内し、洗い物を再開させた。
「主人はご迷惑をおかけしていませんか?」
「とんでもない! 仕事もできるし、お客さんからの評判もすごくいいし、言うことないですよ!」
「そんなに褒めていただいて……ありがとうございます」
社交辞令であってもあまねくんを褒めてもらえるのは私も嬉しい。
「俺の方こそまた遅くまでお邪魔してしまうことになって、申し訳ありません」
「いえいえっ、気になさらないで下さい。私は仕事もしてませんし、主人と戸塚さんさえよければいつ来ていただいてもかまわないんですよ」
「ははっ、本当にいい奥さんだなぁ。光輝くんのお母さんは、まどかさんのお友達になるんでしょうか?」
「ええ、そうです。中学からの親友でして」
「中学!? それは、長い付き合いですね」
戸塚さんは、驚いたように目を見開いた。私は、食器を軽く水で流し、食洗機へと入れていく。小物が終わると、水をはって避けてあったフライパンや鍋を洗い始めた。
「そうなんです。一時は疎遠になったこともあるんですけど、最近は特によく会いますね」
「子供ができると忙しくなりますもんね。まきさん……でしたか、彼女もこんなに遅くなってしまって旦那さんが心配してますよね」
戸塚さんは一変して申し訳なさそうに目を伏せた。どこまでも他人を思いやれる人なのだと思う。
「それは大丈夫ですよ」
「え……」
不思議そうに顔をしかめる彼。離婚のことを私が軽々しく口にするのも気が引けて「色々あったみたいでして……」と言うと、彼は直ぐに何かを察したように「あ……そうでしたか。デリケートな部分に触れてしまってすみません」と逆に謝られてしまった。
「謝るようなことじゃないですよ。ただ、茉紀はすっきりしているように見えて色々抱えているので……彼女の前では何も知らないふりをしてもらえると助かります」
「もちろんです! それにしても、光輝くんも麗夢ちゃんもいい子達ですね」
「私もそう思います。茉紀は厳しいところもあるけど、一番に子供達のことを考えていますから。光輝も凄く素直な子に育ってるなって感心しますよ」
お腹の子が生まれたら、是非子育てを参考にさせてもらいたい。私もいずれは働くかもしれないし。
「いいお母さんなんでしょうね。大変な時期でも子供があんなにも笑顔でいられるのは、お母さんの愛情があるからだろうし……」
「戸塚さん、子供が好きなんですね」
光輝と遊んでいる時もとても優しい目をしていた。嫌がる素振りなど一切見せず、悪役を買って出て最後まで子供に付き合う。誰にでもできることではない。
「正直、今までそんな実感なかったんです。子供と接する機会もほとんどなかったし。ただ、妹がいるので面倒見がいいとは言われますけど」
「はい、お兄ちゃんぽいなとは思いますよ。主人が弟気質なので余計にですが」
甘えたがりのあまねくんを思い出したら、思わずクスクスと笑ってしまった。
「すぐに拗ねたり、文句を言ったりっていう部分は特にそんな感じですね」
戸塚さんも一緒になって笑う。
「戸塚さんに対してもそうなんですか?」
「仕事中は本当に真面目なんですけどね。外に出ると急に子供っぽくなるところがありますよね」
「私よりも付き合いが長いから、戸塚さんの方が彼を色々知っているんでしょうね」
「まあ、少しは。遠い昔からまどかさんに片思いしていたことも知っていますよ」
おかしそうに笑われて、私は声を押し殺して叫んだ。
皆が半ば呆れている中、慌ただしくあまねくん、茉紀、子供達は家を出ていった。
「戸塚さん、主人がすみません……」
羞恥心を抱きながら戸塚さんに頭を下げた。
「いえいえ、愛妻家の素敵な旦那さんだと思いますよ。俺も先輩として鼻が高いです」
ははっと気にする様子もなく笑う戸塚さん。本当にいい先輩だなぁと感心する。
私は、戸塚さんをダイニングチェアに案内し、洗い物を再開させた。
「主人はご迷惑をおかけしていませんか?」
「とんでもない! 仕事もできるし、お客さんからの評判もすごくいいし、言うことないですよ!」
「そんなに褒めていただいて……ありがとうございます」
社交辞令であってもあまねくんを褒めてもらえるのは私も嬉しい。
「俺の方こそまた遅くまでお邪魔してしまうことになって、申し訳ありません」
「いえいえっ、気になさらないで下さい。私は仕事もしてませんし、主人と戸塚さんさえよければいつ来ていただいてもかまわないんですよ」
「ははっ、本当にいい奥さんだなぁ。光輝くんのお母さんは、まどかさんのお友達になるんでしょうか?」
「ええ、そうです。中学からの親友でして」
「中学!? それは、長い付き合いですね」
戸塚さんは、驚いたように目を見開いた。私は、食器を軽く水で流し、食洗機へと入れていく。小物が終わると、水をはって避けてあったフライパンや鍋を洗い始めた。
「そうなんです。一時は疎遠になったこともあるんですけど、最近は特によく会いますね」
「子供ができると忙しくなりますもんね。まきさん……でしたか、彼女もこんなに遅くなってしまって旦那さんが心配してますよね」
戸塚さんは一変して申し訳なさそうに目を伏せた。どこまでも他人を思いやれる人なのだと思う。
「それは大丈夫ですよ」
「え……」
不思議そうに顔をしかめる彼。離婚のことを私が軽々しく口にするのも気が引けて「色々あったみたいでして……」と言うと、彼は直ぐに何かを察したように「あ……そうでしたか。デリケートな部分に触れてしまってすみません」と逆に謝られてしまった。
「謝るようなことじゃないですよ。ただ、茉紀はすっきりしているように見えて色々抱えているので……彼女の前では何も知らないふりをしてもらえると助かります」
「もちろんです! それにしても、光輝くんも麗夢ちゃんもいい子達ですね」
「私もそう思います。茉紀は厳しいところもあるけど、一番に子供達のことを考えていますから。光輝も凄く素直な子に育ってるなって感心しますよ」
お腹の子が生まれたら、是非子育てを参考にさせてもらいたい。私もいずれは働くかもしれないし。
「いいお母さんなんでしょうね。大変な時期でも子供があんなにも笑顔でいられるのは、お母さんの愛情があるからだろうし……」
「戸塚さん、子供が好きなんですね」
光輝と遊んでいる時もとても優しい目をしていた。嫌がる素振りなど一切見せず、悪役を買って出て最後まで子供に付き合う。誰にでもできることではない。
「正直、今までそんな実感なかったんです。子供と接する機会もほとんどなかったし。ただ、妹がいるので面倒見がいいとは言われますけど」
「はい、お兄ちゃんぽいなとは思いますよ。主人が弟気質なので余計にですが」
甘えたがりのあまねくんを思い出したら、思わずクスクスと笑ってしまった。
「すぐに拗ねたり、文句を言ったりっていう部分は特にそんな感じですね」
戸塚さんも一緒になって笑う。
「戸塚さんに対してもそうなんですか?」
「仕事中は本当に真面目なんですけどね。外に出ると急に子供っぽくなるところがありますよね」
「私よりも付き合いが長いから、戸塚さんの方が彼を色々知っているんでしょうね」
「まあ、少しは。遠い昔からまどかさんに片思いしていたことも知っていますよ」
おかしそうに笑われて、私は声を押し殺して叫んだ。
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