170 / 208
それぞれの門出
【14】
しおりを挟む
私は、穴があったら入りたい気分だった。誰彼構わず私の話をしていたのだろうか。私と結婚したから良かったものの、このまま出会うこともなければ彼は単なるイタイ人で終わってしまったことだろう。
「俺は素敵だと思いますけどね。そこまで人を好きになれるって羨ましいですよ」
「彼の場合は少し特殊です……」
私が食洗機のスイッチを入れて、恥ずかしながらそう言うと、彼は「生涯で本当に好きな人と結ばれる確率ってどんなもんなんでしょうかねぇ」なんてしみじみと言った。
ごぉぉぉぉっと食洗機が騒がしい音を立て始め、私はキッチンペーパーを数枚とってフライパンを拭く。水はすぐにペーパーに吸収されて、その瞬間から乾いていく。
「どうでしょうね。でも、結婚してるほとんどの人が、その時は絶対この人だ! って思って入籍してるんじゃないんですかね」
「うーん……でも最近離婚も多いですよね」
「昔に比べて自由ですからね。女性も働いて自立している方も多いですし」
「あー……男としての役割がどんどん減っていきますね」
戸塚さんは寂しそうにそう言った。
「減らないですよ。主人は家事も手伝ってくれますし、きっと育児だって一生懸命やってくれると思うんです。お互い同じくらい働いているなら、同じくらい家事や育児だってやってもいいと思ってるんですよ、私」
「それはそうですね。どうしても、俺も男はバリバリ働くものだって思っちゃって……女性が仕事出来ると、ちょっと自信がなくなっちゃいますね」
「そんなことないですよ! 女性が育児をしながらも働けるのは、旦那さんの安定した収入があってこそだと思いますよ。でなきゃ、女性だって労働ばかりが主になって、時短やパートで働くこともできないですからね。
それに、戸塚さんはあんなに光輝と楽しそうに遊んであげられるし、きっといい旦那さんになりますよ」
戸塚さんなら間違いなく、いい旦那さんにいいパパになるだろう。あまねくんもそうだけれど、こうやって自分の思っていることを素直に言える人は、他人とよくわかり合える人だ。
思いやりがあって、自分の欠点を認める事ができる人は、きっと結婚してからだって上手くいくだろう。
「なんだかまどかさんって不思議な人ですね……。何で俺、こんなに色々喋っちゃうんだろう……」
戸塚さんは、顎に手を当てて首を傾げた。特に相談に乗っているわけでもないし、単なる世間話に過ぎないと思うのだけれど。
「私も、戸塚さんはとても話しやすい方だと思いますよ。主人にこんないい先輩がいて下さって本当に嬉しいです」
「いえいえ、俺の方こそ色々仕事の話を聞いてもらったりしてるんですよ。後輩ですが、今ではいい友人でもあると思っています」
あまねくんの周りには陽菜ちゃんみたいな変な子もいるけど、比較的いい人が多い。あまねくんが引き寄せるのか、お互いに波長があったのかはわからないけど、戸塚さんとは今後もいいお付き合いをしていってもらいたいと心から思った。
暫く戸塚さんと会話をしていると、車の音がしてあまねくん達が帰って来ただろうと顔を上げた。
その内に玄関が開く音がして「ただいまー」というあまねくんの声に続いて「ただいまーー!」と元気な光輝の声がする。
リビングのドアが開いて勢いよくスキッチを両手で持った光輝が駆けてきた。
「あんたはただいまじゃなくておじゃましますでしょ」
茉紀に頭を小突かれている光輝は、全く気にする素振りはなく、真っ先に戸塚さんの元へ行き、黙って膝の上に座った。
私と茉紀はバッチリと目が合ってしまい、私は声を出して笑った。茉紀は額に手を当てて「あんたいい加減にしなよ」と言っている。
「俺は素敵だと思いますけどね。そこまで人を好きになれるって羨ましいですよ」
「彼の場合は少し特殊です……」
私が食洗機のスイッチを入れて、恥ずかしながらそう言うと、彼は「生涯で本当に好きな人と結ばれる確率ってどんなもんなんでしょうかねぇ」なんてしみじみと言った。
ごぉぉぉぉっと食洗機が騒がしい音を立て始め、私はキッチンペーパーを数枚とってフライパンを拭く。水はすぐにペーパーに吸収されて、その瞬間から乾いていく。
「どうでしょうね。でも、結婚してるほとんどの人が、その時は絶対この人だ! って思って入籍してるんじゃないんですかね」
「うーん……でも最近離婚も多いですよね」
「昔に比べて自由ですからね。女性も働いて自立している方も多いですし」
「あー……男としての役割がどんどん減っていきますね」
戸塚さんは寂しそうにそう言った。
「減らないですよ。主人は家事も手伝ってくれますし、きっと育児だって一生懸命やってくれると思うんです。お互い同じくらい働いているなら、同じくらい家事や育児だってやってもいいと思ってるんですよ、私」
「それはそうですね。どうしても、俺も男はバリバリ働くものだって思っちゃって……女性が仕事出来ると、ちょっと自信がなくなっちゃいますね」
「そんなことないですよ! 女性が育児をしながらも働けるのは、旦那さんの安定した収入があってこそだと思いますよ。でなきゃ、女性だって労働ばかりが主になって、時短やパートで働くこともできないですからね。
それに、戸塚さんはあんなに光輝と楽しそうに遊んであげられるし、きっといい旦那さんになりますよ」
戸塚さんなら間違いなく、いい旦那さんにいいパパになるだろう。あまねくんもそうだけれど、こうやって自分の思っていることを素直に言える人は、他人とよくわかり合える人だ。
思いやりがあって、自分の欠点を認める事ができる人は、きっと結婚してからだって上手くいくだろう。
「なんだかまどかさんって不思議な人ですね……。何で俺、こんなに色々喋っちゃうんだろう……」
戸塚さんは、顎に手を当てて首を傾げた。特に相談に乗っているわけでもないし、単なる世間話に過ぎないと思うのだけれど。
「私も、戸塚さんはとても話しやすい方だと思いますよ。主人にこんないい先輩がいて下さって本当に嬉しいです」
「いえいえ、俺の方こそ色々仕事の話を聞いてもらったりしてるんですよ。後輩ですが、今ではいい友人でもあると思っています」
あまねくんの周りには陽菜ちゃんみたいな変な子もいるけど、比較的いい人が多い。あまねくんが引き寄せるのか、お互いに波長があったのかはわからないけど、戸塚さんとは今後もいいお付き合いをしていってもらいたいと心から思った。
暫く戸塚さんと会話をしていると、車の音がしてあまねくん達が帰って来ただろうと顔を上げた。
その内に玄関が開く音がして「ただいまー」というあまねくんの声に続いて「ただいまーー!」と元気な光輝の声がする。
リビングのドアが開いて勢いよくスキッチを両手で持った光輝が駆けてきた。
「あんたはただいまじゃなくておじゃましますでしょ」
茉紀に頭を小突かれている光輝は、全く気にする素振りはなく、真っ先に戸塚さんの元へ行き、黙って膝の上に座った。
私と茉紀はバッチリと目が合ってしまい、私は声を出して笑った。茉紀は額に手を当てて「あんたいい加減にしなよ」と言っている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
専属秘書は極上CEOに囚われる
有允ひろみ
恋愛
手痛い失恋をきっかけに勤めていた会社を辞めた佳乃。彼女は、すべてをリセットするために訪れた南国の島で、名も知らぬ相手と熱く濃密な一夜を経験する。しかし、どれほど強く惹かれ合っていても、行きずりの恋に未来などない――。佳乃は翌朝、黙って彼の前から姿を消した。それから五年、新たな会社で社長秘書として働く佳乃の前に、代表取締役CEOとしてあの夜の彼・敦彦が現れて!? 「今度こそ、絶対に逃さない」戸惑い距離を取ろうとする佳乃を色気たっぷりに追い詰め、彼は忘れたはずの恋心を強引に暴き出し……。執着系イケメンと生真面目OLの、過去からはじまる怒涛の溺愛ラブストーリー!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる