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俺様外科医なんか嫌いだ

誘ってんの?

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 先日、川崎先生が弁解してくれたというのに噂は一向に収まる気配はなかった。それどころか悪化している気がする……。

「あ、愛莉彩ちゃんじゃーん。俺、今夜空いてるよー」

 知らない医師からからかうようにそう声がかかる。怪訝な顔をすればゲラゲラと笑いながら去っていく。1人でいる時にはそんなこと言えないくせに、群れると強気になる。
 いつの時代も性別も関係なく、皆同じだ。実に不愉快。

 息を吐いてエレベーターに乗り込んだ。本当は階段で移動しなければならないが、もうそんな体力も残っていない。仕事だけでも疲れるのに、もうすでに2週間以上もこの噂に振り回されているのだ。余計にしんどいのは言うまでもない。

 閉ボタンを押そうと指を伸ばしたところに乗り込んできた白衣の男。長身の男が通り際に私を見下ろした。

 ……最悪。久我暖陽だ。

「お疲れ様です」

 今は仕事。そう自分に言い聞かせて閉ボタンを押した。じっと上に上がっていく数字を目で追う私。後ろに嫌な気配を感じていると「なぁ、お前他の男も誘ってんの?」という声が聞こえた。

 何それ。お疲れ様でもなければなんでもないな。顔みて第一声がそれか。

「言っている意味がわかりませんが」

「今も言われてたじゃねぇか。森岡先生と破局したから新しいターゲット狙ってんだろ」

 へぇ……。今はそういうことになってるんだ。本当に噂ってあてにならないのね。

「そうですか」

「そうですかじゃなくて、男は見つかったのかって聞いてんだろ」

「いいえ。残念ながら。それとも久我先生がお相手してくれるんですか?」

 まともに話を聞くのもバカバカしい。軽く受け流しておけばいい。どうせ川崎先生の話だって疑っていたくらいだもん。私の話なんて信用するわけがない。

「へぇ……。噂は本当だったんだな。いいよ、1晩だけなら」

 そう言って階数ボタンの前に立つ私を壁と挟み込むような形で体をピッタリとくっつけられた。ふわりと甘い香りがした。

 ……いい匂い。不覚にもそんなふうに思ってしまったことを悟られないように平常心を保つ。いくら男性不信だからといって未経験の乙女じゃない。
 全く気持ちのない男に迫られてドキドキしたり恐れたりするほど子供じゃないの。

 しかし彼は身を屈めて私の顔に近付く。端整な顔が横目に見えて顔を上げると、色素の薄い綺麗な瞳と視線が交わった。
 じっとその目を見つめ返すと「やっぱり男慣れしてんな。俺に迫られてそんなすましてられるのはお前くらいだ」とバカにされたように鼻で笑われた。

 ……なに言っちゃってんの、この男。俺ってカッコイイから、全ての女は俺に迫られたらドキドキして心臓がもたないぜとか思ってるってこと?

 そう思ったら実に滑稽で、私はついその場で吹き出した。
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