上 下
26 / 143
俺様外科医なんか嫌いだ

キスをした男

しおりを挟む
「すげぇ胸でけぇじゃん。服の上からでもわかるわ」

 下品な言葉が聞こえる。ひんやりとした空気が腹部を撫でた。下着が顔を出したのも感覚でわかる。

「んーん!」

 必死に抵抗をするが、足がバタつくだけでその足すらも掴まれてしまった。

「おとなしくしてろって。普段から複数も相手してるんだろ?」

「職場でスルってのに興奮してるのかもしんないなぁ」

「皆で一緒に気持ちよくなろうよ」

 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!
 どいつもこいつも、男なんてこんなヤツらばっかり! ヤルことしか考えてない、野蛮で汚くて外道!

 あの人と別れてからもう何年もセックスなんてしていないのに……。無理矢理挿入されたら痛いんだろうな。
 ナカ、傷付くかな……。いつまで続くかな……。

 終わりの見えない恐怖に涙がこぼれた。仕事をしにきて帰るだけ。たったそれだけのことも私には許されないんだろうか。

 ジーンズを引っ張られる。床についた臀部のおかげでなんとかおろされずにすんでいる。スキニーにしてよかった。スカートなんかでこなくてよかった。

 私は、悲しいくらい小さな抵抗で唯一褒められる場所を探した。

「おい、早くしろよ」

「ちょっと待てよ。先に上全部脱がせろ」

「本当にすげぇな。手からあふれるくらいあるぞ」

 そんな会話が聞こえて、背中に手を差し込まれる。下着のホックを外されないよう、なんとか背中に体重をかけて踏ん張る。

「いいからもう全部上にあげちゃえよ。それが1番早い」

「あ、待って。そこにクーパーあるだろ」

 男が指を差したのは処置カート。私は目を見開く。一般人が処置カートを見てハサミの存在に気付くはずがない。まして、クーパーだなんて専門用語は医療従事者でなければ使わない。

 ここの医者ってわけ……。どうなってんの、この病院。

 どこか冷静な私が思考の隅っこでそう呟いた。

「あった、あった。切るぞ」

 そう言ってクーパーの先端を向けられた瞬間、「切るって何をです? 楽しそうなことしてますね」と別の声が聞こえた。

 ピタッと一瞬で動きを止めた3人の男達。ばっと勢いよく後ろを振り返った。私も視線だけ動かせば、そこには久我暖陽がいた。

「……あ、く、久我先生……?」

 私に覆いかぶさっていた男が動揺しながらそう言った。

「院内で何してるんですか? そういうプレイですか? ……にしては、リアルですね」

 静かな声が響く。助けてくれるのかくれないのかどっちつかずな対応に、私は安心できないまま震えた。
 だってこの男は私にキスをした男だ。もしかしたらこの仲間に加わるかもしれない。
 3人が4人になる。考えただけでゾッとして私は呼吸が止まりそうだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】転生後も愛し愛される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:858

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,431pt お気に入り:2,215

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:448

処理中です...