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ナースの王子様

元彼と今彼と……?

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 九瀬まりあは、カチカチと音がしそうなほど唇を震わせていた。

「じゃあ、先生達は外来の九瀬まりあさんに言われて、外科病棟の九ノ瀬愛莉彩さんを襲ったってことで間違いないんですか?」

 動画の中で聞こえたのは久我先生の声だった。

「そうだよ! 間違いない。外来の九瀬まりあだ。病棟の九ノ瀬さんが毎晩男と遊んでるって聞いたんだよ! 色んな噂もあったし」

「聞いただけの話でよくそんなことしましたね? だって、犯罪ですよ?」

「だ、だってあの子もう何年もずっと同じ噂で持ち切りだろ!? 彼氏がいるって話も聞かないし……」

「じゃあ、彼女と関係を持ったと証言する人はいたんですか?」

「それは……」

「そもそもなんで、外来の九瀬さんの話は信じたんですか?」

 私はゴクリと喉を鳴らした。会話が進むにつれて緊張感も増した。本当にどうしてただの噂だけで彼らはリスクを負ったんだろう。
 私は自分の被害しか考えていなかった。けれど、私が被害届を出せば彼らは強制わいせつ罪に問われる可能性もある。そうなれば懲戒解雇は免れない。よほどのことがない限り、医師免許の剥奪まではいかないにしろ、今後の人生においては痛手になるはず。

 それなのに、なんの確証もない噂を信じて私を襲うなんて考えが浅はか過ぎる。

「それは……彼女が、九瀬さんが嘘なんかつくような子じゃないからだよ」

「……どういう意味ですか?」

「今はもう別れたけど……昔付き合ってたんだ」

 そう言ったのは真ん中の男。

「え? 小石川先生……彼女と付き合ってたんですか?」

 左隣の男が声を震わせた。

「もういいでしょ! やめてよ! 消して!」

 その瞬間、九瀬まりあが叫んだ。どうにか動画を停止させようともがいた。

「もう少し聞けよ。俺はもう全部この耳で聞いたんだからな。お前が今この動画を取り上げたところで事実は変わらない。コピーの動画も他のところに保存してある」

「な……そんな……」

 ぎゅうっと握った拳を震わせた、廊下の床にドッと叩きつけた。鈍い音がした。痛そうだとこちらが顔を歪めてしまう。

 そんな中でも動画は流れ続ける。

「そんな話、初耳なんだが……今、彼女は俺と付き合ってるんだぞ」

「え!? ちょ、山下先生どういうことですか? まりあと付き合ってるのは僕ですよ!」

 今度は右側の男が腰を上げた。
 どういうこと……この女が付き合ってるのは森岡先生だけじゃないってことなの……?

「え? 嘘つかないで下さい! 俺はまりあから頼まれたんですよ! 彼女を苦しめた女に仕返ししてくれって!」

「……え?」

 以前付き合っていたと言った真ん中の音が情けない声を上げた。
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