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ナースの王子様
近付く距離
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足音がこちらに近付いてくる。久我先生と横並びに座り込んでいるところなんか見られたら今度はどんな噂を流されるかわかったもんじゃない。
そう思っていると、隣の彼はすっと立ち上がり手をさっさと払った。今まで先生が座っていた柱と壁の間まで移動しろとでも言いたげだった。
私はしゃがんだまま移動し、背中を壁につけたままにした。角を挟んで私の前に立った先生はPHSを耳にあてた。
「ああ、俺だ。うん、そうか血圧は?」
そんな声が頭上から降ってきた。連絡なんてきていなかったはず。ということは、これはあくまでもフリか。そう思いながら、私はおとなしく座り込んでいた。
「お疲れ様です」
先生の後ろから別の女性の声が聞こえた。顔を上げれば少し上に先生の股間があって、私は慌てて顔を下げた。
軽く振り返って頷いた先生は、「じゃあ点滴1本入れといて。すぐに見に行く」と続けた。
足音がと遠ざかって行くと、何事もなかったかのようにPHSを白衣のポケットにしまった。冷静に対応できるところはさすがだと感心してしまう。
「……見つかるかと思いました」
私から距離をとり、立ったまままた壁に寄りかかった先生を見上げてそう言った。
「俺まで変な噂が立ったら困るからな」
「……本当に、そんなリスクまで犯してここまでしてくれなくてもよかったのに」
手に握ったままだったSDカードを見ながら言えば「別に……それは、俺の意思でやったことだからいいんだよ。それより、あの男と付き合うつもりがないなら今後は俺に頼れよ」と1つ咳払いをしてから彼は言う。
「……え?」
「またあの女が何かしかけてくるかもしれないしな。最後の悪あがきで」
「それは……否めなせんね」
「俺ならあの医者達とも会話ができるし、優位な立場にいる。だから、お前にとって今1番頼りになるのはこの俺ってことだ」
「……はぁ」
なんだか自信満々の彼に私は困惑しながら軽く頷いた。どちらにせよ、この人からもらう動画を頼りにするしかないのだ。
私では証拠を集められなかったのだから。
「アイツらが辞めた後だって気は抜けない」
「そうですね。あそこまでした人達ですから……」
「だから、まあ……完全に安全だってわかるまでは俺が守ってやるっつーか、味方でいるっつーか……まぁ安心できるよう協力はするつもりでいる……」
久我先生はふいっと顔を背けてボソボソとそう言った。ほんのり耳が赤くなっていて、柄にもないことを言って恥ずかしくなったように見えた。
完全にこの人のことを信用することはできない。でも、ほんの少しだけ……本当にほんの少しだけ、頼ってみてもいい気がした。
そう思っていると、隣の彼はすっと立ち上がり手をさっさと払った。今まで先生が座っていた柱と壁の間まで移動しろとでも言いたげだった。
私はしゃがんだまま移動し、背中を壁につけたままにした。角を挟んで私の前に立った先生はPHSを耳にあてた。
「ああ、俺だ。うん、そうか血圧は?」
そんな声が頭上から降ってきた。連絡なんてきていなかったはず。ということは、これはあくまでもフリか。そう思いながら、私はおとなしく座り込んでいた。
「お疲れ様です」
先生の後ろから別の女性の声が聞こえた。顔を上げれば少し上に先生の股間があって、私は慌てて顔を下げた。
軽く振り返って頷いた先生は、「じゃあ点滴1本入れといて。すぐに見に行く」と続けた。
足音がと遠ざかって行くと、何事もなかったかのようにPHSを白衣のポケットにしまった。冷静に対応できるところはさすがだと感心してしまう。
「……見つかるかと思いました」
私から距離をとり、立ったまままた壁に寄りかかった先生を見上げてそう言った。
「俺まで変な噂が立ったら困るからな」
「……本当に、そんなリスクまで犯してここまでしてくれなくてもよかったのに」
手に握ったままだったSDカードを見ながら言えば「別に……それは、俺の意思でやったことだからいいんだよ。それより、あの男と付き合うつもりがないなら今後は俺に頼れよ」と1つ咳払いをしてから彼は言う。
「……え?」
「またあの女が何かしかけてくるかもしれないしな。最後の悪あがきで」
「それは……否めなせんね」
「俺ならあの医者達とも会話ができるし、優位な立場にいる。だから、お前にとって今1番頼りになるのはこの俺ってことだ」
「……はぁ」
なんだか自信満々の彼に私は困惑しながら軽く頷いた。どちらにせよ、この人からもらう動画を頼りにするしかないのだ。
私では証拠を集められなかったのだから。
「アイツらが辞めた後だって気は抜けない」
「そうですね。あそこまでした人達ですから……」
「だから、まあ……完全に安全だってわかるまでは俺が守ってやるっつーか、味方でいるっつーか……まぁ安心できるよう協力はするつもりでいる……」
久我先生はふいっと顔を背けてボソボソとそう言った。ほんのり耳が赤くなっていて、柄にもないことを言って恥ずかしくなったように見えた。
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