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噂だらけの病院

信用されたい

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 ちゃんと謝罪をした。自分が悪いとわかっていて悪態をつくほど俺だって子供じゃない。それに……裏切ってきた男達みたいに、全員が全員九ノ瀬が思うような男ばかりじゃないことも知って欲しいと思った。

 証拠を手渡せば少しだけ安堵した表情を見せてくれた。それから少しずつ、過去の話もしてくれた。
 酷いものだった。学生時代から始まり、今まで本気で愛された経験がないという。

 男性経験が豊富で遊んでいるような女だと思っていたのに、九ノ瀬は寂しそうに顔を伏せていた。
 ただ1人に愛されたかっただけなんだって思ったら、過去の男達に苛立ちが募る。人の気持ちをなんだと思ってんだと気分が悪くなった。

 そんな人間に対して俺は、噂を信じて人間性を決めつけ、九ノ瀬を傷付けた。こうやって色んな男達から毎日性的な目を向けられ、体目的の男ばかりが集まる。

 もし、本気で九ノ瀬のことを好きな男が現れたら、コイツはどうするんだろうかとふと思う。
 例えば、あの槙ってヤツとか……。

「……アイツとは付き合わないのか?」

 そう尋ねてみた。もし、九ノ瀬があの男に気があるなら、きっと気を許せる相手はアイツだけになるだろう。
 そう思ったが、九ノ瀬は本気で拒絶した。そういう対象ではないと言った。

 そっか……。なんだ、アイツの片想いか。そう思ったらふっと笑みがこぼれた。
 九ノ瀬にとってはあくまでも先輩であって、男としてみてるわけじゃない。あの男がどんなに九ノ瀬のことを好きでも、その恋が実ることはない。

 なーんだ……。心配する必要なんかなかった。

「俺が守ってやる……」

 言った手前、照れた。なんだ、これ。すげぇ恥ずかしいな。1番頼りになるのも、味方でいてやれるのも今は俺だ。
 俺の事を信用して頼ってくればいい。というか……信用されたい。

 九ノ瀬が唯一信用できる男になりたいと思った。男は皆クズだと思っている九ノ瀬にとって、俺だけが違うと思ってくれたらいい。
 少しずつでもいいから、俺の事を……男としてって……あれ?

 自分で思って、かあっと顔に熱がこもった。なんだよ、これ。これじゃぁ、まるで俺が九ノ瀬のこと気になってるみたいじゃねぇか。
 女としてみてるみたいじゃ……そんなわけない。そんなわけ……。

 ちょっと弱々しく微笑む顔を見て可愛いと思ったなんて、そんなはずがない。俺がこの女を好きになるはずがない。だって……だって?
 アバズレじゃなかった。遊んでるわけじゃなかった。仕事に対して真面目で、患者に対しても真剣に向き合ってて……男の愛情に飢えてるだけで。

 ……その相手って、俺じゃダメなのかな。


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