【完結】先生、大人の診察は勤務外でお願いします

雪村こはる

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変化する関係性

デートの約束

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 ぽっぽっと頬が熱を持っている。デートらしいデートなんてもう何年もしてなかったし、今後そういうものをできるとも思っていなかった。

「ま、また一緒にでかけるんですか?」

「嫌か?」

「い、嫌じゃないですけど……先生忙しいですし……」

 手は未だに繋いだままで落ち着かない。脈は速くなるし、ドクドクうるさいし。
 多分これは、久しぶりに男性に触って緊張してるだけで、別に先生だからってわけじゃないし……。

「なら、今度は別のところに付き合えよ。まだ行けてない飯屋あんだよ」

「……はい」

 私は小さく頷いた。ご飯に行くだけだし。べ、別にデートじゃないし。で、でも一緒に歩くとなったらこうやって手を繋いで……。
 途中まで考えたら沸騰してしまいそうな程恥ずかしくなった。

「実際、どこまで平気なんだろうな」

「え? なにがですか?」

「触れて平気なの」

「そっ、それはっ……」

「もう少し試してみる?」

 ふっと頬を緩めた先生は、私の手を離すと両腕を広げた。白衣が左右に広がって、中のスクラブが顔を出す。

「あの……?」

 これはもしかして……もしかしなくても……。
 私の頭の中には男女の抱擁が浮かぶ。これはその合図なのだろうか……。いや、そんなまさか! で、でもでもこれはっ!

「来てみる? ここ」

 やっぱりそういう意味かもしれない!
 来てみるって……そ、そこにはまり込むという解釈で合ってますか?

「そ、そこへ……」

「うん」

「その間にってことですか……?」

「うん。やめとく? まだ怖いか」

 そう言って先生は両手を広げたまま肩をすくめた。まるで、洋画の俳優さんみたいな反応に私はふっと力が抜けた。自然と笑みまでこぼれた。

「なに笑ってんだよ」

「いえ……、別に」

 ふふっとまた笑ってしまう。今までなら緊張して絶対に無理だったのに。後ろから抱きしめられたあの日、先生の腕に強く爪を立てたのに。
 今では全く恐怖心がなかった。

「ったく、お前がどこまで平気か試したいって言ったんだろ。あー、もういい。やめやめ」

 先生は盛大に息を吐いて「仕事戻るぞー」と私に背を向けた。
 抱きしめられるのはまだ体が硬直するかもしれない。でも、こちらから抱きつくのはどうなんだろう……。

 ふとそんな考えが過ぎって、私は先生の背中に近付いた。それから、ドアノブに手をかけたの広い背中に頬を擦り寄せる。手を伸ばして腕を回した。
 ふわっと甘い香りがした。助けてもらったあの日、近くに感じた優しい匂いだった。
 きゅっと力を込めれば、先生の腹部に回した腕が固定された。
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