9 / 289
愛情
【9】
しおりを挟む
「え! じゃあ、遂に結婚ですか。おめでとうございます」
私以上に嬉しそうな彼女は、満面の笑みを浮かべている。
「いや、すぐにじゃないんだよ」
「何でですか? 付き合って長いですよね?」
職場の人間は、税理士の彼氏がいるということを知ってはいるが、雅臣と別れたこととあまねくんと付き合い始めたことは誰にも言っていなかった。
雅臣についても、年上の彼氏としか言っていなかったため、脱税報道があり逮捕された男が私の元彼だと知る人間は誰もいない。
「あのー……、今違う人と付き合ってるの」
「え!?」
「ちょ、声大きい!」
「すみません……」
トイレ誘導も終わり、食事を待つだけの空き時間にこっそりフロアで話をしていたため、大塚さんの声に反応して、何人かの利用者さんがこちらを振り返った。
別の職員が先に休憩に入っているため、このフロアにいる職員は私と大塚さんだけだが、隣のフロアにはまた別の職員が2名いる。
いつこちらに来てもおかしくないため、私達は声をひそめた。
「前の彼とは別れたの」
「そうだったんですか。でも、すぐにお付き合い始めるなんてさすがですね」
何か楽しそうなものでも見つけたかのようにわくわくとした表情を浮かべる彼女。他人の恋愛は面白く映るのだろう。
「まあ、色々あってさ。でも、彼がもう結婚したいっていうからとりあえず挨拶だけでもって思って……」
「前にも言いましたけど、絶対先に会っておいた方がいいですよ。結婚決まっちゃってっからじゃどうにもならないですからね」
「そうだよね……」
「でも、何がそんなに不安なんですか?」
「彼、年下なんだ」
「え!?」
「だから、向こうの家族にどう思われるか心配で……」
いつか、見るからに年上の彼氏がいそう! と言っていた大塚さんは、驚いたように目を見開いている。
そりゃそうだよね。私だって、あまねくんじゃなければ年下と付き合おうだなんて考えなかったし。
「いくつ下なんですか?」
「5個……」
「5個っていうと……」
「今27歳」
「あ、なんだ……じゃあ、いいじゃないですか。年下って言って不安そうな顔するから、すっごい年下を想像しちゃいました」
「いやいや、私にとって27歳は結構下だよ?」
「そうですか? うーん、27歳なら全然いいと思いますけどね」
「そう?」
「はい。そんなに身構えなくても大丈夫な気がします」
彼女が笑顔で言ってくれるから、何となく少しだけ安堵した。他人から見た年下の彼氏がどんな印象なのか、少なからず人目も気になるから。
「だといいんだけど……。これ、大塚さんにしか言ってないから誰にも言わないでね。広まったら大塚さんだってバレるからね」
「いいませんよ! 秘密にします」
小声でこそこそと話していると「おしっこんつんもっちゃいそうだよー!」と大声が聞こえる。
驚いて顔を上げれば、手招きしている利用者さんがいた。私の大好きな千代さんだ。
「はいはい、トイレね。行きましょうか。誘導してくるね」
「私行きますよ」
「いいよ。もうご飯くると思うから」
大塚さんとの話を切り上げて、千代さんをトイレに連れていく。
さっき誘導しようと思った時にはまだいいと断られてしまったため、こうして時間がずれることもある。けれど、認知症のある千代さんは、ほとんどパット内に排尿してしまっていることの方が多い。
「千代さん、もうご飯ですよ」
「ほうか。朝ごはんかえ?」
「ううん、お昼ご飯」
「もう、お昼かね。わっきゃないねぇ」
「ねぇ」
仕事で楽しいことと言えば、こうして千代さんの笑顔を見て癒されることくらいだ。
さあ、午後も頑張って定時で帰ろう。
私以上に嬉しそうな彼女は、満面の笑みを浮かべている。
「いや、すぐにじゃないんだよ」
「何でですか? 付き合って長いですよね?」
職場の人間は、税理士の彼氏がいるということを知ってはいるが、雅臣と別れたこととあまねくんと付き合い始めたことは誰にも言っていなかった。
雅臣についても、年上の彼氏としか言っていなかったため、脱税報道があり逮捕された男が私の元彼だと知る人間は誰もいない。
「あのー……、今違う人と付き合ってるの」
「え!?」
「ちょ、声大きい!」
「すみません……」
トイレ誘導も終わり、食事を待つだけの空き時間にこっそりフロアで話をしていたため、大塚さんの声に反応して、何人かの利用者さんがこちらを振り返った。
別の職員が先に休憩に入っているため、このフロアにいる職員は私と大塚さんだけだが、隣のフロアにはまた別の職員が2名いる。
いつこちらに来てもおかしくないため、私達は声をひそめた。
「前の彼とは別れたの」
「そうだったんですか。でも、すぐにお付き合い始めるなんてさすがですね」
何か楽しそうなものでも見つけたかのようにわくわくとした表情を浮かべる彼女。他人の恋愛は面白く映るのだろう。
「まあ、色々あってさ。でも、彼がもう結婚したいっていうからとりあえず挨拶だけでもって思って……」
「前にも言いましたけど、絶対先に会っておいた方がいいですよ。結婚決まっちゃってっからじゃどうにもならないですからね」
「そうだよね……」
「でも、何がそんなに不安なんですか?」
「彼、年下なんだ」
「え!?」
「だから、向こうの家族にどう思われるか心配で……」
いつか、見るからに年上の彼氏がいそう! と言っていた大塚さんは、驚いたように目を見開いている。
そりゃそうだよね。私だって、あまねくんじゃなければ年下と付き合おうだなんて考えなかったし。
「いくつ下なんですか?」
「5個……」
「5個っていうと……」
「今27歳」
「あ、なんだ……じゃあ、いいじゃないですか。年下って言って不安そうな顔するから、すっごい年下を想像しちゃいました」
「いやいや、私にとって27歳は結構下だよ?」
「そうですか? うーん、27歳なら全然いいと思いますけどね」
「そう?」
「はい。そんなに身構えなくても大丈夫な気がします」
彼女が笑顔で言ってくれるから、何となく少しだけ安堵した。他人から見た年下の彼氏がどんな印象なのか、少なからず人目も気になるから。
「だといいんだけど……。これ、大塚さんにしか言ってないから誰にも言わないでね。広まったら大塚さんだってバレるからね」
「いいませんよ! 秘密にします」
小声でこそこそと話していると「おしっこんつんもっちゃいそうだよー!」と大声が聞こえる。
驚いて顔を上げれば、手招きしている利用者さんがいた。私の大好きな千代さんだ。
「はいはい、トイレね。行きましょうか。誘導してくるね」
「私行きますよ」
「いいよ。もうご飯くると思うから」
大塚さんとの話を切り上げて、千代さんをトイレに連れていく。
さっき誘導しようと思った時にはまだいいと断られてしまったため、こうして時間がずれることもある。けれど、認知症のある千代さんは、ほとんどパット内に排尿してしまっていることの方が多い。
「千代さん、もうご飯ですよ」
「ほうか。朝ごはんかえ?」
「ううん、お昼ご飯」
「もう、お昼かね。わっきゃないねぇ」
「ねぇ」
仕事で楽しいことと言えば、こうして千代さんの笑顔を見て癒されることくらいだ。
さあ、午後も頑張って定時で帰ろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる