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愛情
【10】
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4月13日 土曜日
確定申告を終えて年度が変わり、あまねくんの仕事は少しだけ余裕がでてきたようだ。
土曜日もちゃんと休みがとれるようになったため、彼は昼頃まで眠る。昼過ぎには私の家に迎えに来てくれ、彼の住むマンションへ向かった。
夕方まで時間があるし、それまで一緒に過ごそうということになったのだ。
彼の実家にお邪魔するということで、服装は悩んだが、清楚に見えるよう白のブラウスにベージュのフレアスカートにした。
髪もハーフアップにして、だらしのない印象は避けた。
「まどかさん、服装によっていつも雰囲気違うよね」
家の中でまじまじと私を見つめる彼は、そう言った。
「そ、そうかな? 変じゃない?」
「変じゃない! すっごい可愛い。大人っぽいまどかさんも好きだし、時々ボーイッシュなのも好きだけど、こういう可愛らしいのも似合うんだね。本当に可愛い」
ものすごく褒めてくれるから、照れ臭くて顔が熱くなる。
あまねくんに可愛いと言ってもらえたら、色々考えて決めてよかったと思える。化粧もいつもよりナチュラルにした。その分、肌が綺麗に見えるようにベースメイクに力を入れた。
支度に結構時間がかかったが、今日は勝負の日。この第一印象がなによりも大事なのだと気合いが入った。
「ありがとう……。そんなに褒めてもらえるなら、これにしてよかった」
「そんなに可愛いとさ……」
「ん?」
「シたくなっちゃうね」
右手で私の腰を掴んで、引き寄せる彼。
「だめ! 絶対だめ! 髪もせっかくセットしたんだから。ブラウスもシワになっちゃうでしょ」
「脱げばいいじゃん」
しれっとそんなことを言う。これからあなたの両親に会うのに、そんなにいかがわしいことなどできません。
「ダメです」
今日の我が儘は聞けません。そんなに可愛い顔で見つめられても、甘えるようにすり寄ってきても、ねだるように手を握ってみても、ダメなものはダメです。
「何で? じゃあ、キスだけ」
「グロスがとれちゃうからだめ」
「それはまた塗ればいいじゃん」
そうなんだけど、キスしたらきっと彼は歯止めが利かなくなるから。いつものことだから、私にはわかる。
リビングに立ったままの私は、あまねくんの手をかわして奥のソファに腰かける。
「まどかさんは、俺とキスしたくないの?」
「したらあまねくん我慢できなくなるからダメだよ」
「大丈夫だよ」
「ダメ」
「んー……」
子供のように顔をしかめて、口を尖らせて拗ねたように私の隣にドカッと座る。
いかにも不服そうな彼に「じゃあ、帰ってきたらね」と言えば、わかりやすく目を輝かせた。
観たかった映画をいくつか借りてきていたため、それらを観て時間を待った。姉が美味しいと言っていた洋菓子屋に寄って既に手土産は購入してあった。
彼の車に乗り込んで他愛もない話をするけれど、時間が経つに連れどんどん緊張感が膨れてくる。
笑顔もぎこちなくなる程、胸の鼓動がバクバクとする。およその距離も把握していないが、車で15分くらいだと聞き、何度も時計を確認してしまう。
「まどかさん、緊張してる?」
「してる……すごく、してる……」
「大丈夫だよ。彼女紹介するなんて初めてだけど」
「そうなの?」
「うん。あんまり恋愛してる暇もなかったし。だから、今回家族に彼女を連れてくるって言った時、すごい驚かれたけど 」
「そりゃそうだよね……」
「でも両親も喜んでくれてたし心配ないと思うよ」
「そうかな……」
「俺が一緒にいるし」
「うん……」
あまねくんの言葉は心強いけれど、まだ安心はできなかった。お母さんは元モデルだって聞いたし、とても綺麗な人だろう。そして、そんな人を奥さんとして迎え入れたお父さんはどんな人だろう。
興味はとてもあるけれど、そんな人達に認めてもらえる自信はなかった。
確定申告を終えて年度が変わり、あまねくんの仕事は少しだけ余裕がでてきたようだ。
土曜日もちゃんと休みがとれるようになったため、彼は昼頃まで眠る。昼過ぎには私の家に迎えに来てくれ、彼の住むマンションへ向かった。
夕方まで時間があるし、それまで一緒に過ごそうということになったのだ。
彼の実家にお邪魔するということで、服装は悩んだが、清楚に見えるよう白のブラウスにベージュのフレアスカートにした。
髪もハーフアップにして、だらしのない印象は避けた。
「まどかさん、服装によっていつも雰囲気違うよね」
家の中でまじまじと私を見つめる彼は、そう言った。
「そ、そうかな? 変じゃない?」
「変じゃない! すっごい可愛い。大人っぽいまどかさんも好きだし、時々ボーイッシュなのも好きだけど、こういう可愛らしいのも似合うんだね。本当に可愛い」
ものすごく褒めてくれるから、照れ臭くて顔が熱くなる。
あまねくんに可愛いと言ってもらえたら、色々考えて決めてよかったと思える。化粧もいつもよりナチュラルにした。その分、肌が綺麗に見えるようにベースメイクに力を入れた。
支度に結構時間がかかったが、今日は勝負の日。この第一印象がなによりも大事なのだと気合いが入った。
「ありがとう……。そんなに褒めてもらえるなら、これにしてよかった」
「そんなに可愛いとさ……」
「ん?」
「シたくなっちゃうね」
右手で私の腰を掴んで、引き寄せる彼。
「だめ! 絶対だめ! 髪もせっかくセットしたんだから。ブラウスもシワになっちゃうでしょ」
「脱げばいいじゃん」
しれっとそんなことを言う。これからあなたの両親に会うのに、そんなにいかがわしいことなどできません。
「ダメです」
今日の我が儘は聞けません。そんなに可愛い顔で見つめられても、甘えるようにすり寄ってきても、ねだるように手を握ってみても、ダメなものはダメです。
「何で? じゃあ、キスだけ」
「グロスがとれちゃうからだめ」
「それはまた塗ればいいじゃん」
そうなんだけど、キスしたらきっと彼は歯止めが利かなくなるから。いつものことだから、私にはわかる。
リビングに立ったままの私は、あまねくんの手をかわして奥のソファに腰かける。
「まどかさんは、俺とキスしたくないの?」
「したらあまねくん我慢できなくなるからダメだよ」
「大丈夫だよ」
「ダメ」
「んー……」
子供のように顔をしかめて、口を尖らせて拗ねたように私の隣にドカッと座る。
いかにも不服そうな彼に「じゃあ、帰ってきたらね」と言えば、わかりやすく目を輝かせた。
観たかった映画をいくつか借りてきていたため、それらを観て時間を待った。姉が美味しいと言っていた洋菓子屋に寄って既に手土産は購入してあった。
彼の車に乗り込んで他愛もない話をするけれど、時間が経つに連れどんどん緊張感が膨れてくる。
笑顔もぎこちなくなる程、胸の鼓動がバクバクとする。およその距離も把握していないが、車で15分くらいだと聞き、何度も時計を確認してしまう。
「まどかさん、緊張してる?」
「してる……すごく、してる……」
「大丈夫だよ。彼女紹介するなんて初めてだけど」
「そうなの?」
「うん。あんまり恋愛してる暇もなかったし。だから、今回家族に彼女を連れてくるって言った時、すごい驚かれたけど 」
「そりゃそうだよね……」
「でも両親も喜んでくれてたし心配ないと思うよ」
「そうかな……」
「俺が一緒にいるし」
「うん……」
あまねくんの言葉は心強いけれど、まだ安心はできなかった。お母さんは元モデルだって聞いたし、とても綺麗な人だろう。そして、そんな人を奥さんとして迎え入れたお父さんはどんな人だろう。
興味はとてもあるけれど、そんな人達に認めてもらえる自信はなかった。
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