【完結】美人過ぎる〇〇はワンコ彼氏に溺愛される

雪村こはる

文字の大きさ
46 / 289
愛情

【45】

しおりを挟む
 仕事をしていても気になるのは千代さんの事ばかり。
 周りの職員も私の姿を見つけては「千代さん大変でしたね」と声をかけてくれる。近藤さんに「千代さん待ってると思うからお見舞いいってあげて」と言われた。

 今日はあまねくんが来ない日だし、帰りに病院に寄っていく時間はある。
 今日行かないとなんとなくもう会えない気がした。今までは発熱しても骨折しても何とか乗り越えてきた千代さん。その度に心配して、元気になってくると一緒に笑いあった。
 今回だって何だかんだこのまま回復して、すぐに戻ってくるかもしれない。そうは思うものの、悪い予感は消えなかった。

 仕事が終ると、申し送りもそこそこに皆に断りを入れて千代さんのいる病院に向かった。
 病棟だけは聞いていたため、ナースステーションで声をかける。忙しい病院では、施設の職員が声をかけて、仕事の手を止めてしまうことを嫌がるのか、看護師の表情は堅かった。

「家族ですか?」

「いえ、すずらんの職員です」

「今、家族しか入れないんですよ。帰ってもらうか、家族がいいって言ってくれれば会うこともできるかもしれないですけどね」

 金色に近い短髪で小太りの女性。40代半ばくらいだろうか。
 愛想のない看護師だった。忙しいのは施設だって一緒だ。

「待っているので、家族に確認してもらえますか?」

「あー……じゃあ、ちょっとお待ち下さい」

 顔を歪める彼女を見て、今の私はすごく邪魔なのだろうと察する。
 廊下をバタバタと色んな看護師が走り回っている。もしかしたら急患がいるのかもしれない。

 やはり忙しいのか、それから30分以上待たされても、その看護師がやってくることはなかった。

 少しずつ不安と苛立ちとが混在した感情が込み上げてくる。一目会わせてくれればいいのだ。
 治療中でも、たくさんの管が繋がっていても、千代さんの顔を1度見せてくれたら、会えてよかったと思えたらそれだけでいい。

 そう思うのに、それすらも許して貰えないような緊迫した状態が続く。
 ぼーっとナースステーションの前で待つ私を何人もの看護師が怪訝そうにこちらを見やり、何人かの面会者が視線も合わせず通りすぎ、決して居心地のいいものではなかった。

 こんなに待たされるなら帰ろうかななんて思うのだけれど、家族しか入れないという言葉が、それだけ状態の重さを語っているようでその場から動くことも気が引けた。

 もうすぐ1時間が経とうとしている。そんな時分に「お待たせしました。家族がいいと言ってくれたのでどうぞ」とあの看護師に声をかけられた。
 文句も言わず、催促もせずにおとなしく待っていたからであろうか、少しだけ彼女の表情は柔らかくなっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

処理中です...