【完結】美人過ぎる〇〇はワンコ彼氏に溺愛される

雪村こはる

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ラポール形成

【37】

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 彼の顔が更に近付き、掴まれた手首と腰を引かれる。全体的に彼との距離が縮まる。
 ふと沸いた感情は、憤りだった。
 彼に掴まれていた腕ごと彼の胸板をぐっと押し返す。

 体の間に隙間ができると、手を振りほどいてそのままその右手で彼の頬を打った。

「馬鹿にしないで!  私はあまねくんが好きだから彼と結婚するの!  彼以外の人と結婚なんかしない!  あんたの資産なんかいらない!」

 声を張り上げて息が続く限り、捲し立てるように言い放った。
 律くんはいい人だと思っていた。家族想いで、あまねくんの幸せを喜んでくれている人だと思っていた。それを、あまねくんがいないところでこんなことを言うなんて酷すぎる。
 私のことまで馬鹿にしたような発言が聞かれ、見下されているような気がした。

 雅臣と付き合っていた時には、見下されても、馬鹿にされてもぐっと堪えて笑顔を作っていた。けれど、今の私はあの頃とは違う。
 あまねくんを2度と傷付けないと決めたし、裏切る気など更々ない。彼が嫌がるようなことをする人は、例えそれが彼の兄であっても許せない。

 歯を食い縛り、きっと彼を睨み付ける。殴《ぶ》たれた左頬を見るかのように一瞬視線を落とした彼だったが、次の瞬間ふっと笑ったかと思うとそのまま腹を抱えて笑いだした。

「ははっ……」

「何がおかしいの!?」

「ふっ……くくっ……おかしっ」

「ちょ、何笑って……」

「普通叩く?  力強すぎるんだけどっ……ははっ」

「あんたが人を馬鹿にしたようなことするからでしょ!?」

「ごめっ……ははっ、冗談」

「はぁ?」

 なおも笑っている彼に、苛立ちと困惑とが混在する。苦しそうな程笑う彼に、初めて会ったときのクールな印象は微塵もない。

「あー……多分俺、近年で1番笑いました」

「あのねぇ……」

 ようやく息をついて、落ち着いた様子の彼に、こちらも呆れてしまう。一体全体なんだというのだ。嫌悪感にも似た感情が、私の中で渦を巻く。

「奏があまりにもあなたのことをこの家の資産目的だって言い張るから、もっと資産が増える提案をしたらどんな反応するかなと思いまして」

「試したの!?」

「俺が周を裏切るわけないじゃないですか。まあ……殴られるのは予想外でしたけど」

 そう言ってまた思い出したかのようにクスクスと笑った。そう言った彼は、いつもの律くんで、呆気にとられてしまった。
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