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再会
【11】
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「何で……どうやって中に入ったの?」
「ああ……昔入った時に、あの小物入れの中にスペアーキー見つけてさ、あの時に合鍵作ったんだ」
彼の視線は、一瞬テレビラックの引き出しに入れてある小物入れの方へ向いていた。
「……え? そんな、何で勝手に!」
「言ったらまどか嫌がるでしょ? 何かあったら困るしさ、合鍵くらい持っておいた方がいいかと思って。鍵変えられてるかなって思ったけど、そのままでよかったよ。連絡も取れないし」
「私言ったよね? 臣くんとはちゃんと別れたし、今付き合ってる人がいるって」
非力ながらも腕にグッと力を入れて、真っ直ぐに彼の目を見つめる。
怖い。凄く怖い。でも、ここで怯んだらきっと負ける。
大丈夫、私にはあまねくんがついてるんだから。車を置きさえすれば、彼は戻ってくる。
鍵が開いていたものだから、彼との約束も忘れて鍵を閉めなかった。これでよかった。もしも、いつも通り施錠されていたら、私は彼との約束通り内側から鍵をしてしまったことだろう。
ここから歩いて15分程度。あまねくんの歩幅なら、もっと早いかもしれない。もう少し場を繋げば彼が来てくれる。
大丈夫。きっと大丈夫。
自分に言い聞かせるかのように、何度も心の中で大丈夫だと呟く。少しでも早くあまねくんが来てくれることを願いながら。
「それ、本当だったんだ? てっきり強がって嘘ついたのかと思ったけど……服メンズだもんね」
彼は、左手で私の両腕をまとめて押さえ付けると、襟元を指で引っかけてそのまま引っ張った。中にひんやりとした空気が流れ込む。素肌が露出されて、嫌悪感でいっぱいになる。
「……やめて」
「俺と別れていくらも経ってないのに、もう結婚の話なんて出てんだ?」
「……関係ないでしょ」
「あるよ。やめとけ。どうせその辺の男じゃ大した収入もないし、経済力が目的のまどかにとっては満足できないでしょ?」
彼は、馬鹿にしたように喉の奥でククッと笑う。私は、彼のこの顔が大嫌いだった。人を見下して、馬鹿にして、いつでも自分が正しいと思い込んでいる。
「そういう理由で結婚するわけじゃないから。私が本気で好きだから結婚するの。そんな考え方しかできないなんて可哀想な人」
毅然とした態度でいれば、彼は笑みを消し、無表情で私を見下ろす。その冷徹な視線が5日前の恐怖を呼び起こす。
「……可哀想? 誰が可哀想だって? お前ごときが俺を馬鹿にすんなよ。裏切られて1人ぼっちになった哀れなお前を、もう1度俺がもらってやるって言ってんだから、素直に喜べよ」
憤りを含んだ静かな声が、耳元で唸る。お前呼ばわりされるのも、こんなにキツイ言い方をされるのも、今日が初めてだった。付き合っていた時には、上手に繕っていて気付かなかった。
最後の電話では、笑われて、馬鹿にされたけれど、こんなふうに脅すような言葉はなかった。
体の内側から、恐怖と不安とが押し寄せて、この場から逃げ出したくてたまらない。
彼が怒るところなど今まで見たこともなかったのだから、今から何が起こるのか想像もつかなかった。
「ああ……昔入った時に、あの小物入れの中にスペアーキー見つけてさ、あの時に合鍵作ったんだ」
彼の視線は、一瞬テレビラックの引き出しに入れてある小物入れの方へ向いていた。
「……え? そんな、何で勝手に!」
「言ったらまどか嫌がるでしょ? 何かあったら困るしさ、合鍵くらい持っておいた方がいいかと思って。鍵変えられてるかなって思ったけど、そのままでよかったよ。連絡も取れないし」
「私言ったよね? 臣くんとはちゃんと別れたし、今付き合ってる人がいるって」
非力ながらも腕にグッと力を入れて、真っ直ぐに彼の目を見つめる。
怖い。凄く怖い。でも、ここで怯んだらきっと負ける。
大丈夫、私にはあまねくんがついてるんだから。車を置きさえすれば、彼は戻ってくる。
鍵が開いていたものだから、彼との約束も忘れて鍵を閉めなかった。これでよかった。もしも、いつも通り施錠されていたら、私は彼との約束通り内側から鍵をしてしまったことだろう。
ここから歩いて15分程度。あまねくんの歩幅なら、もっと早いかもしれない。もう少し場を繋げば彼が来てくれる。
大丈夫。きっと大丈夫。
自分に言い聞かせるかのように、何度も心の中で大丈夫だと呟く。少しでも早くあまねくんが来てくれることを願いながら。
「それ、本当だったんだ? てっきり強がって嘘ついたのかと思ったけど……服メンズだもんね」
彼は、左手で私の両腕をまとめて押さえ付けると、襟元を指で引っかけてそのまま引っ張った。中にひんやりとした空気が流れ込む。素肌が露出されて、嫌悪感でいっぱいになる。
「……やめて」
「俺と別れていくらも経ってないのに、もう結婚の話なんて出てんだ?」
「……関係ないでしょ」
「あるよ。やめとけ。どうせその辺の男じゃ大した収入もないし、経済力が目的のまどかにとっては満足できないでしょ?」
彼は、馬鹿にしたように喉の奥でククッと笑う。私は、彼のこの顔が大嫌いだった。人を見下して、馬鹿にして、いつでも自分が正しいと思い込んでいる。
「そういう理由で結婚するわけじゃないから。私が本気で好きだから結婚するの。そんな考え方しかできないなんて可哀想な人」
毅然とした態度でいれば、彼は笑みを消し、無表情で私を見下ろす。その冷徹な視線が5日前の恐怖を呼び起こす。
「……可哀想? 誰が可哀想だって? お前ごときが俺を馬鹿にすんなよ。裏切られて1人ぼっちになった哀れなお前を、もう1度俺がもらってやるって言ってんだから、素直に喜べよ」
憤りを含んだ静かな声が、耳元で唸る。お前呼ばわりされるのも、こんなにキツイ言い方をされるのも、今日が初めてだった。付き合っていた時には、上手に繕っていて気付かなかった。
最後の電話では、笑われて、馬鹿にされたけれど、こんなふうに脅すような言葉はなかった。
体の内側から、恐怖と不安とが押し寄せて、この場から逃げ出したくてたまらない。
彼が怒るところなど今まで見たこともなかったのだから、今から何が起こるのか想像もつかなかった。
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