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再会
【22】
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「君は今、28歳だと言ったね?」
「はい」
「大学を卒業して就職してから、6年目になるか」
「はい」
「ちょうど仕事も1人でできて、後輩に指導もできるようになってきた立場だ」
「……そうです」
「税理士さんと言えば、自分が抱えている顧客も案件も多いでしょうに。経営コンサルトのような仕事もすると聞きました。事業を立て直すために、奮闘している会社もあるんじゃないんですか?」
「……おっしゃる通りです。経営状況にもよりますが、税理士の腕によって破産するか、立て直せるか左右されることもあります」
「じゃあ君は、税理士として君のことを信頼して自分の会社を任せてくれている顧客を、全て他の人間に引き継いでそこを辞めるというんですかな」
「……」
具体的にそんな話をされると、あまねくんはぐっと押し黙ってしまう。
「まどかのことを想ってくれているのはわかった。しかし、感情でものを言うんじゃない。新しい事務所に、自分の顧客を移動させることだって不可能だろ」
「はい」
「この6年間、ずっと関係性を保っている顧客だっているでしょうに」
「はい」
「それら全ての顧客を、今君と一緒に働いている税理士に振り分けたら、周りにどれ程の負担がある? 君と同じくらいの技量のある税理士がすぐに用意できるのかね」
「……それは」
税理士試験に合格できる人間だってたかが知れている。無資格、無経験で誰でもどうぞというわけにはいかない。専門職である以上、資格を持っていて、あまねくんと同等、またはそれ以上の経験がないと彼の代役にはならない。
「君を雇ってくれた人に恩はないのか?」
「……あります」
「君が今辞めたことで、事務所は困らないかね」
「……」
困らないわけがなかった。あまねくんがいたって確定申告の時期には多忙で毎日の残業を強いられるのだ。ここであまねくんが抜けてしまえば、他の職員の負担も増える。
優しいあまねくんは、そんな負担を負わせたくないと考えるだろう。
「その結城という男が、仮に1年でも2年でも捕まってくれて、その間猶予があるとする。それで君は、今の顧客と仕事を全て他の人間に引き継いで、新しい就職先を見つけることができるのか?」
「それは……」
「今はいい暮らしをしているだろう。すぐに再就職して、今と同じくらいの生活水準に戻せるのかね。まどかが苦労しないだけの生活をさせてやれるのか」
「お父さん! 別に私は、あまねくんに養ってもらおうなんて思ってない。私だって働くし、あまねくんばかりが負担になるようなことはさせたくないよ!」
彼と付き合う時に、金銭面だって協力していくと決めたんだ。もし仮に、あまねくんの仕事がすぐに見つからなくても、私なら引く手あまたの福祉業界ですぐに就職できる。どんなに仕事がきつくたって、我慢できる。
「そうか。ならお前、子供は作らないんだな」
「え?」
「そうだろう? 今と同じように夜勤もやって、彼の分まで働いていて。妊娠したら、働けないだろう。ギリギリまで働いて、産休をもらうでもいい。だがその後、すぐに子供を預ける場所は決まるのか? 地元から離れて、誰に頼るつもりだ。保育園が見つからなければ、ベビーシッターでも雇うか? それにはまた金がかかる」
「そうだけど……」
「2人の就職と生活が安定して、それから子供ができるならいい。だが、それは何年後になる? 君も、そういう先のことまで考えて発言しているのか」
「……いえ」
「何も私は、君のことが気に入らないだとか、まどかのことを幸せにできないだとか、そんなことを言っているんじゃない。本来であれば、今結婚して近々子供ができて、君の両親や私達のサポートを受けながら生活できたんだ。それを、2人揃って仕事を辞めて、今あるだけの貯金で引っ越しをして、職を探して、1から全ての環境を作り上げていかなければならない。それがどういうことかわかっていないと言っているんだ」
感情的なのは父の方だった筈なのに、いつの間にか、丸め込まれてしまう。確かにこの地を離れれば、私達がすぐに頼れる場所はなくなる。
だからといって、この家に留まり続けたら、私とあまねくんの関係は一体どうなるのだろう。
「はい」
「大学を卒業して就職してから、6年目になるか」
「はい」
「ちょうど仕事も1人でできて、後輩に指導もできるようになってきた立場だ」
「……そうです」
「税理士さんと言えば、自分が抱えている顧客も案件も多いでしょうに。経営コンサルトのような仕事もすると聞きました。事業を立て直すために、奮闘している会社もあるんじゃないんですか?」
「……おっしゃる通りです。経営状況にもよりますが、税理士の腕によって破産するか、立て直せるか左右されることもあります」
「じゃあ君は、税理士として君のことを信頼して自分の会社を任せてくれている顧客を、全て他の人間に引き継いでそこを辞めるというんですかな」
「……」
具体的にそんな話をされると、あまねくんはぐっと押し黙ってしまう。
「まどかのことを想ってくれているのはわかった。しかし、感情でものを言うんじゃない。新しい事務所に、自分の顧客を移動させることだって不可能だろ」
「はい」
「この6年間、ずっと関係性を保っている顧客だっているでしょうに」
「はい」
「それら全ての顧客を、今君と一緒に働いている税理士に振り分けたら、周りにどれ程の負担がある? 君と同じくらいの技量のある税理士がすぐに用意できるのかね」
「……それは」
税理士試験に合格できる人間だってたかが知れている。無資格、無経験で誰でもどうぞというわけにはいかない。専門職である以上、資格を持っていて、あまねくんと同等、またはそれ以上の経験がないと彼の代役にはならない。
「君を雇ってくれた人に恩はないのか?」
「……あります」
「君が今辞めたことで、事務所は困らないかね」
「……」
困らないわけがなかった。あまねくんがいたって確定申告の時期には多忙で毎日の残業を強いられるのだ。ここであまねくんが抜けてしまえば、他の職員の負担も増える。
優しいあまねくんは、そんな負担を負わせたくないと考えるだろう。
「その結城という男が、仮に1年でも2年でも捕まってくれて、その間猶予があるとする。それで君は、今の顧客と仕事を全て他の人間に引き継いで、新しい就職先を見つけることができるのか?」
「それは……」
「今はいい暮らしをしているだろう。すぐに再就職して、今と同じくらいの生活水準に戻せるのかね。まどかが苦労しないだけの生活をさせてやれるのか」
「お父さん! 別に私は、あまねくんに養ってもらおうなんて思ってない。私だって働くし、あまねくんばかりが負担になるようなことはさせたくないよ!」
彼と付き合う時に、金銭面だって協力していくと決めたんだ。もし仮に、あまねくんの仕事がすぐに見つからなくても、私なら引く手あまたの福祉業界ですぐに就職できる。どんなに仕事がきつくたって、我慢できる。
「そうか。ならお前、子供は作らないんだな」
「え?」
「そうだろう? 今と同じように夜勤もやって、彼の分まで働いていて。妊娠したら、働けないだろう。ギリギリまで働いて、産休をもらうでもいい。だがその後、すぐに子供を預ける場所は決まるのか? 地元から離れて、誰に頼るつもりだ。保育園が見つからなければ、ベビーシッターでも雇うか? それにはまた金がかかる」
「そうだけど……」
「2人の就職と生活が安定して、それから子供ができるならいい。だが、それは何年後になる? 君も、そういう先のことまで考えて発言しているのか」
「……いえ」
「何も私は、君のことが気に入らないだとか、まどかのことを幸せにできないだとか、そんなことを言っているんじゃない。本来であれば、今結婚して近々子供ができて、君の両親や私達のサポートを受けながら生活できたんだ。それを、2人揃って仕事を辞めて、今あるだけの貯金で引っ越しをして、職を探して、1から全ての環境を作り上げていかなければならない。それがどういうことかわかっていないと言っているんだ」
感情的なのは父の方だった筈なのに、いつの間にか、丸め込まれてしまう。確かにこの地を離れれば、私達がすぐに頼れる場所はなくなる。
だからといって、この家に留まり続けたら、私とあまねくんの関係は一体どうなるのだろう。
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