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再会
【23】
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「もし、私が実家に帰って来て、職場を変えたとして……私はもうあまねくんとはいられないの?」
あまねくんと一緒にいられるなら、どんな苦労でも、我慢でもするつもりだ。だけど、あまねくんと一緒にいられないのなら、実家に帰る意味も、職場を変える意味もない。
あまねくんがいないのなら、自分で自分の身を守り、1人で生きていく気力など湧かない。
「別れろと言っているわけじゃない。考えなさいと言っているんだ。とにかく、まどかは一旦うちに帰ってきなさい。守屋くんと言ったか……君が職場を辞めるのであれば、安定した生活が得られるまで、まどかはやれない。ただ、今の職場で仕事を続けるのであれば、結城という男をなんとかしなさい」
そう言って父は、母が出したお茶を一口飲んだ。
「お父さん、あの人のことを何とかするのは、警察でしょ!? 何であまねくんが……」
「警察に何ができる? 証拠があって、実際に被害にあってからじゃないと動いてはくれない。法に触れなければ、逮捕もできない。お前が訴訟を起こさなければ、実刑もつかない。さくらが言ったように、そんな状態でその男がすぐに出てきたらどうする?」
「だから、裁判で実刑をつけてもらえばいいじゃない!」
口を挟むのを我慢していた姉は、再びそう声を荒げた。
「それはなしだ。最大で10年の懲役を得られたとして、それに対して失うものが多すぎる。父さんと母さんは、お前達のように再就職など簡単にはできない。ましてや、県内でもトップレベルの進学校だ。これで入学者数が減ったりでもしたらどうする。父さんと母さんだけの問題でもなくなる。だからと言って、刑期を終えて出てきたらまた危険はつきまとう」
「……わかりました。まずは、弁護士に相談します。その上でしっかり答えを出します。それがはっきりするまでは、まどかさんには実家に帰っていただきます。ですが、結城が勾留されている間、僕と一緒に弁護士の元へ行くことは許していただけませんか」
「まあ、勾留中でその男がまどかに手出しできないのであれば、どう行動してもらってもかまわない。ただ、娘を危険に曝すのだけは許すことはできない」
「もちろんです。全ての方向性が決まったら、また改めて同棲についてお話させて下さい」
あまねくんは、意を決したように締まった表情で父と向き合った。
「あまねくん……」
「大丈夫。とりあえず、一緒にうちの実家に行こう」
「……そっか。お父さんと律くんは……」
「うん。家で話を聞いてもらうくらいはできるはずだから」
隣で優しく微笑む彼に、父は「どういうことかね」と怪訝そうに表情を歪めた。
「あまねくんのお父さんとお兄さんは、弁護士さんなんだよ」
「……そうか。立派なお宅だな……」
父は、何か言いたげだったが、静かにそう言った。
「身内が関わってくると、どちらかが弁護人としてつくのは無理だと思うけど、相談くらい乗ってくれるはずだから」
「うん……」
身近に頼れる人がいるのはとても心強いことだ。
私は、やむを得ず実家に戻ることになってしまったが、事が収まればあまねくんとの同棲も認めてもらえるだろう。
気まずい空気は保ったまま、ようやく食事が開始となった。既におかずは冷めてしまっているし、ちらし寿司も乾き始めている。
それでも、何とか今やるべきことが決まり、私とあまねくんは前進した気持ちを抱くことができた。
父の言葉に納得できない部分はあったが、納得させるしかないのだと、自分を奮い立たせた。
あまねくんと一緒にいられるなら、どんな苦労でも、我慢でもするつもりだ。だけど、あまねくんと一緒にいられないのなら、実家に帰る意味も、職場を変える意味もない。
あまねくんがいないのなら、自分で自分の身を守り、1人で生きていく気力など湧かない。
「別れろと言っているわけじゃない。考えなさいと言っているんだ。とにかく、まどかは一旦うちに帰ってきなさい。守屋くんと言ったか……君が職場を辞めるのであれば、安定した生活が得られるまで、まどかはやれない。ただ、今の職場で仕事を続けるのであれば、結城という男をなんとかしなさい」
そう言って父は、母が出したお茶を一口飲んだ。
「お父さん、あの人のことを何とかするのは、警察でしょ!? 何であまねくんが……」
「警察に何ができる? 証拠があって、実際に被害にあってからじゃないと動いてはくれない。法に触れなければ、逮捕もできない。お前が訴訟を起こさなければ、実刑もつかない。さくらが言ったように、そんな状態でその男がすぐに出てきたらどうする?」
「だから、裁判で実刑をつけてもらえばいいじゃない!」
口を挟むのを我慢していた姉は、再びそう声を荒げた。
「それはなしだ。最大で10年の懲役を得られたとして、それに対して失うものが多すぎる。父さんと母さんは、お前達のように再就職など簡単にはできない。ましてや、県内でもトップレベルの進学校だ。これで入学者数が減ったりでもしたらどうする。父さんと母さんだけの問題でもなくなる。だからと言って、刑期を終えて出てきたらまた危険はつきまとう」
「……わかりました。まずは、弁護士に相談します。その上でしっかり答えを出します。それがはっきりするまでは、まどかさんには実家に帰っていただきます。ですが、結城が勾留されている間、僕と一緒に弁護士の元へ行くことは許していただけませんか」
「まあ、勾留中でその男がまどかに手出しできないのであれば、どう行動してもらってもかまわない。ただ、娘を危険に曝すのだけは許すことはできない」
「もちろんです。全ての方向性が決まったら、また改めて同棲についてお話させて下さい」
あまねくんは、意を決したように締まった表情で父と向き合った。
「あまねくん……」
「大丈夫。とりあえず、一緒にうちの実家に行こう」
「……そっか。お父さんと律くんは……」
「うん。家で話を聞いてもらうくらいはできるはずだから」
隣で優しく微笑む彼に、父は「どういうことかね」と怪訝そうに表情を歪めた。
「あまねくんのお父さんとお兄さんは、弁護士さんなんだよ」
「……そうか。立派なお宅だな……」
父は、何か言いたげだったが、静かにそう言った。
「身内が関わってくると、どちらかが弁護人としてつくのは無理だと思うけど、相談くらい乗ってくれるはずだから」
「うん……」
身近に頼れる人がいるのはとても心強いことだ。
私は、やむを得ず実家に戻ることになってしまったが、事が収まればあまねくんとの同棲も認めてもらえるだろう。
気まずい空気は保ったまま、ようやく食事が開始となった。既におかずは冷めてしまっているし、ちらし寿司も乾き始めている。
それでも、何とか今やるべきことが決まり、私とあまねくんは前進した気持ちを抱くことができた。
父の言葉に納得できない部分はあったが、納得させるしかないのだと、自分を奮い立たせた。
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