208 / 289
前進
【46】
しおりを挟む
小さなあまねくんを堪能した私は、すっかり満たされていた。あの動画ダビングさせてもらえないかな……なんてことをこっそりと考える。
ついあまねくんを見るたびに恍惚の表情を浮かべてしまうらしく、あまねくんは暫く居心地の悪そうな顔をしていた。
休日なのに早起きに運動。食事は毎食ちゃんとした手作り。実家でだらだらとした生活を送っていたのが嘘のように、その日を皮切りに私は健康的で規則正しい生活を送るようになっていった。
そんな日々が10日程続き、そろそろ病院にも行かなきゃだなと思う頃。いつものようにダリアさんと汗を流し、シャワーを浴びてからリビングに戻る。
ドアを開けた瞬間、黒髪のうしろ姿が目に飛び込んできて、あれ? なんでこんな時間に律くんが? なんて思う。
あまねくんの髪は、ダリアさんに似て地毛でも少しだけ茶色がかっている。それに、見るからに柔らかそうな毛質だ。
それに比べて律くんは、しっかりした黒髪で少し硬そうな綺麗なストレート。毛質が全く違うから、後ろ姿で間違える筈がない。
だから、律くんだと思ったのだけれど、それにしては何か違和感があった。
律くんにしては座高が低い? 肩幅が狭い? というか華奢過ぎる……と分析している内に「あ、降りてきた」と音に気付いた主が振り返った。
「え……? えー!!」
思わず指を差して大声を上げた。
「うるさいなぁ……」
「だ、だ、だって、髪!」
「自分がイメチェンすればって言ったんでしょ?」
そう言って気怠そうに顔を歪める様は、律くんにそっくりだった。あんなに大事に腰まで伸ばしていた金髪も今では全く面影がない。
化粧だって、付けまつげバチバチの濃いメイクではなく、軽くアイラインを引いている程度のシンプルなもの。だからか、余計に中性的に見える。
「すごい……律くんそっくりだよ」
「それ、褒めてんの?」
「当たり前じゃん! えー! 凄い! イケメン!」
「失礼な……。男っぽくなるから、化粧薄くするの嫌だったんだよ」
そう言って彼女は顔を背けるが、満更でもなさそうにしている。まさか奏ちゃんがこんなに素直にイメチェンするとも思っていなかったため、驚きだ。
それにしたって、いくらショートヘアーにしても、バッチリ化粧をすれば可愛らしいままでいれただろうに、わざわざ化粧を薄くしたのは、自らボーイッシュの方向にしたからだろう。
「服装も全然違うね。ますます律くんだ」
「そんなに似てる? あっくんとだって血繋がってるんだけど」
「うん、あまねくんも中性的だけどさ、それでも律くんの方が雰囲気似てるよ。目が似てるのかなぁ」
女性にしては眉と目との幅が狭いからなのか……とにかく理由はわからないけれど、カッコいい女性に大変身を遂げたことには変わりない。
「ふーん。お母さんは?」
「今、シャワー浴びてるんじゃないかな?」
「ああ、ヨガでもやってたのか。あんたは?」
「私もここに来てから毎日ダリアさんと運動してるの。ねぇ、そういえばいい加減そのあんたっていうのやめない? 私、一応年上だけど」
「一応っていうか年上じゃん。おばさんだもん」
「おばっ……」
相変わらず失礼な奴。いくらイケメン風に生まれ変わったからって言っていいことと悪いことと……。
「そうやって眉間に皺寄せてると、そのままの形で皺になっちゃうよ」
「え!? ちょ、誰のせいで!」
額を押さえて睨みつければ、彼女はははっと笑う。こうやって笑えば、尚更律くんに似ている。
「ねぇ、やっぱり奏ちゃんイケメンだよ! 写真集あったら私買うもん!」
「……何それ。じゃあ、りっちゃんの写真集あったら買うわけ?」
「……買うわ」
「やめとけ」
「なんで!?」
写真集は、目の保養になるし、美しい律くんの色んな表情が載っていたら是非とも見てみたいではないか。
「じゃあ、あっくんの写真集があったらどうすんの?」
「5冊は買う」
「バカじゃないの」
そう言いながら、ゲラゲラ笑っている。よかった、元気そうで。あんなにモデル辞めるだとか、若い子に仕事を取られたと泣きそうな顔をしていたから、心配していた。けれど、どこか吹っ切れた様子の彼女を見たら、こちらまで元気を貰えた。
ついあまねくんを見るたびに恍惚の表情を浮かべてしまうらしく、あまねくんは暫く居心地の悪そうな顔をしていた。
休日なのに早起きに運動。食事は毎食ちゃんとした手作り。実家でだらだらとした生活を送っていたのが嘘のように、その日を皮切りに私は健康的で規則正しい生活を送るようになっていった。
そんな日々が10日程続き、そろそろ病院にも行かなきゃだなと思う頃。いつものようにダリアさんと汗を流し、シャワーを浴びてからリビングに戻る。
ドアを開けた瞬間、黒髪のうしろ姿が目に飛び込んできて、あれ? なんでこんな時間に律くんが? なんて思う。
あまねくんの髪は、ダリアさんに似て地毛でも少しだけ茶色がかっている。それに、見るからに柔らかそうな毛質だ。
それに比べて律くんは、しっかりした黒髪で少し硬そうな綺麗なストレート。毛質が全く違うから、後ろ姿で間違える筈がない。
だから、律くんだと思ったのだけれど、それにしては何か違和感があった。
律くんにしては座高が低い? 肩幅が狭い? というか華奢過ぎる……と分析している内に「あ、降りてきた」と音に気付いた主が振り返った。
「え……? えー!!」
思わず指を差して大声を上げた。
「うるさいなぁ……」
「だ、だ、だって、髪!」
「自分がイメチェンすればって言ったんでしょ?」
そう言って気怠そうに顔を歪める様は、律くんにそっくりだった。あんなに大事に腰まで伸ばしていた金髪も今では全く面影がない。
化粧だって、付けまつげバチバチの濃いメイクではなく、軽くアイラインを引いている程度のシンプルなもの。だからか、余計に中性的に見える。
「すごい……律くんそっくりだよ」
「それ、褒めてんの?」
「当たり前じゃん! えー! 凄い! イケメン!」
「失礼な……。男っぽくなるから、化粧薄くするの嫌だったんだよ」
そう言って彼女は顔を背けるが、満更でもなさそうにしている。まさか奏ちゃんがこんなに素直にイメチェンするとも思っていなかったため、驚きだ。
それにしたって、いくらショートヘアーにしても、バッチリ化粧をすれば可愛らしいままでいれただろうに、わざわざ化粧を薄くしたのは、自らボーイッシュの方向にしたからだろう。
「服装も全然違うね。ますます律くんだ」
「そんなに似てる? あっくんとだって血繋がってるんだけど」
「うん、あまねくんも中性的だけどさ、それでも律くんの方が雰囲気似てるよ。目が似てるのかなぁ」
女性にしては眉と目との幅が狭いからなのか……とにかく理由はわからないけれど、カッコいい女性に大変身を遂げたことには変わりない。
「ふーん。お母さんは?」
「今、シャワー浴びてるんじゃないかな?」
「ああ、ヨガでもやってたのか。あんたは?」
「私もここに来てから毎日ダリアさんと運動してるの。ねぇ、そういえばいい加減そのあんたっていうのやめない? 私、一応年上だけど」
「一応っていうか年上じゃん。おばさんだもん」
「おばっ……」
相変わらず失礼な奴。いくらイケメン風に生まれ変わったからって言っていいことと悪いことと……。
「そうやって眉間に皺寄せてると、そのままの形で皺になっちゃうよ」
「え!? ちょ、誰のせいで!」
額を押さえて睨みつければ、彼女はははっと笑う。こうやって笑えば、尚更律くんに似ている。
「ねぇ、やっぱり奏ちゃんイケメンだよ! 写真集あったら私買うもん!」
「……何それ。じゃあ、りっちゃんの写真集あったら買うわけ?」
「……買うわ」
「やめとけ」
「なんで!?」
写真集は、目の保養になるし、美しい律くんの色んな表情が載っていたら是非とも見てみたいではないか。
「じゃあ、あっくんの写真集があったらどうすんの?」
「5冊は買う」
「バカじゃないの」
そう言いながら、ゲラゲラ笑っている。よかった、元気そうで。あんなにモデル辞めるだとか、若い子に仕事を取られたと泣きそうな顔をしていたから、心配していた。けれど、どこか吹っ切れた様子の彼女を見たら、こちらまで元気を貰えた。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました
せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~
救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。
どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。
乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。
受け取ろうとすると邪魔だと言われる。
そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。
医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。
最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇
作品はフィクションです。
本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる