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前進
【46】
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小さなあまねくんを堪能した私は、すっかり満たされていた。あの動画ダビングさせてもらえないかな……なんてことをこっそりと考える。
ついあまねくんを見るたびに恍惚の表情を浮かべてしまうらしく、あまねくんは暫く居心地の悪そうな顔をしていた。
休日なのに早起きに運動。食事は毎食ちゃんとした手作り。実家でだらだらとした生活を送っていたのが嘘のように、その日を皮切りに私は健康的で規則正しい生活を送るようになっていった。
そんな日々が10日程続き、そろそろ病院にも行かなきゃだなと思う頃。いつものようにダリアさんと汗を流し、シャワーを浴びてからリビングに戻る。
ドアを開けた瞬間、黒髪のうしろ姿が目に飛び込んできて、あれ? なんでこんな時間に律くんが? なんて思う。
あまねくんの髪は、ダリアさんに似て地毛でも少しだけ茶色がかっている。それに、見るからに柔らかそうな毛質だ。
それに比べて律くんは、しっかりした黒髪で少し硬そうな綺麗なストレート。毛質が全く違うから、後ろ姿で間違える筈がない。
だから、律くんだと思ったのだけれど、それにしては何か違和感があった。
律くんにしては座高が低い? 肩幅が狭い? というか華奢過ぎる……と分析している内に「あ、降りてきた」と音に気付いた主が振り返った。
「え……? えー!!」
思わず指を差して大声を上げた。
「うるさいなぁ……」
「だ、だ、だって、髪!」
「自分がイメチェンすればって言ったんでしょ?」
そう言って気怠そうに顔を歪める様は、律くんにそっくりだった。あんなに大事に腰まで伸ばしていた金髪も今では全く面影がない。
化粧だって、付けまつげバチバチの濃いメイクではなく、軽くアイラインを引いている程度のシンプルなもの。だからか、余計に中性的に見える。
「すごい……律くんそっくりだよ」
「それ、褒めてんの?」
「当たり前じゃん! えー! 凄い! イケメン!」
「失礼な……。男っぽくなるから、化粧薄くするの嫌だったんだよ」
そう言って彼女は顔を背けるが、満更でもなさそうにしている。まさか奏ちゃんがこんなに素直にイメチェンするとも思っていなかったため、驚きだ。
それにしたって、いくらショートヘアーにしても、バッチリ化粧をすれば可愛らしいままでいれただろうに、わざわざ化粧を薄くしたのは、自らボーイッシュの方向にしたからだろう。
「服装も全然違うね。ますます律くんだ」
「そんなに似てる? あっくんとだって血繋がってるんだけど」
「うん、あまねくんも中性的だけどさ、それでも律くんの方が雰囲気似てるよ。目が似てるのかなぁ」
女性にしては眉と目との幅が狭いからなのか……とにかく理由はわからないけれど、カッコいい女性に大変身を遂げたことには変わりない。
「ふーん。お母さんは?」
「今、シャワー浴びてるんじゃないかな?」
「ああ、ヨガでもやってたのか。あんたは?」
「私もここに来てから毎日ダリアさんと運動してるの。ねぇ、そういえばいい加減そのあんたっていうのやめない? 私、一応年上だけど」
「一応っていうか年上じゃん。おばさんだもん」
「おばっ……」
相変わらず失礼な奴。いくらイケメン風に生まれ変わったからって言っていいことと悪いことと……。
「そうやって眉間に皺寄せてると、そのままの形で皺になっちゃうよ」
「え!? ちょ、誰のせいで!」
額を押さえて睨みつければ、彼女はははっと笑う。こうやって笑えば、尚更律くんに似ている。
「ねぇ、やっぱり奏ちゃんイケメンだよ! 写真集あったら私買うもん!」
「……何それ。じゃあ、りっちゃんの写真集あったら買うわけ?」
「……買うわ」
「やめとけ」
「なんで!?」
写真集は、目の保養になるし、美しい律くんの色んな表情が載っていたら是非とも見てみたいではないか。
「じゃあ、あっくんの写真集があったらどうすんの?」
「5冊は買う」
「バカじゃないの」
そう言いながら、ゲラゲラ笑っている。よかった、元気そうで。あんなにモデル辞めるだとか、若い子に仕事を取られたと泣きそうな顔をしていたから、心配していた。けれど、どこか吹っ切れた様子の彼女を見たら、こちらまで元気を貰えた。
ついあまねくんを見るたびに恍惚の表情を浮かべてしまうらしく、あまねくんは暫く居心地の悪そうな顔をしていた。
休日なのに早起きに運動。食事は毎食ちゃんとした手作り。実家でだらだらとした生活を送っていたのが嘘のように、その日を皮切りに私は健康的で規則正しい生活を送るようになっていった。
そんな日々が10日程続き、そろそろ病院にも行かなきゃだなと思う頃。いつものようにダリアさんと汗を流し、シャワーを浴びてからリビングに戻る。
ドアを開けた瞬間、黒髪のうしろ姿が目に飛び込んできて、あれ? なんでこんな時間に律くんが? なんて思う。
あまねくんの髪は、ダリアさんに似て地毛でも少しだけ茶色がかっている。それに、見るからに柔らかそうな毛質だ。
それに比べて律くんは、しっかりした黒髪で少し硬そうな綺麗なストレート。毛質が全く違うから、後ろ姿で間違える筈がない。
だから、律くんだと思ったのだけれど、それにしては何か違和感があった。
律くんにしては座高が低い? 肩幅が狭い? というか華奢過ぎる……と分析している内に「あ、降りてきた」と音に気付いた主が振り返った。
「え……? えー!!」
思わず指を差して大声を上げた。
「うるさいなぁ……」
「だ、だ、だって、髪!」
「自分がイメチェンすればって言ったんでしょ?」
そう言って気怠そうに顔を歪める様は、律くんにそっくりだった。あんなに大事に腰まで伸ばしていた金髪も今では全く面影がない。
化粧だって、付けまつげバチバチの濃いメイクではなく、軽くアイラインを引いている程度のシンプルなもの。だからか、余計に中性的に見える。
「すごい……律くんそっくりだよ」
「それ、褒めてんの?」
「当たり前じゃん! えー! 凄い! イケメン!」
「失礼な……。男っぽくなるから、化粧薄くするの嫌だったんだよ」
そう言って彼女は顔を背けるが、満更でもなさそうにしている。まさか奏ちゃんがこんなに素直にイメチェンするとも思っていなかったため、驚きだ。
それにしたって、いくらショートヘアーにしても、バッチリ化粧をすれば可愛らしいままでいれただろうに、わざわざ化粧を薄くしたのは、自らボーイッシュの方向にしたからだろう。
「服装も全然違うね。ますます律くんだ」
「そんなに似てる? あっくんとだって血繋がってるんだけど」
「うん、あまねくんも中性的だけどさ、それでも律くんの方が雰囲気似てるよ。目が似てるのかなぁ」
女性にしては眉と目との幅が狭いからなのか……とにかく理由はわからないけれど、カッコいい女性に大変身を遂げたことには変わりない。
「ふーん。お母さんは?」
「今、シャワー浴びてるんじゃないかな?」
「ああ、ヨガでもやってたのか。あんたは?」
「私もここに来てから毎日ダリアさんと運動してるの。ねぇ、そういえばいい加減そのあんたっていうのやめない? 私、一応年上だけど」
「一応っていうか年上じゃん。おばさんだもん」
「おばっ……」
相変わらず失礼な奴。いくらイケメン風に生まれ変わったからって言っていいことと悪いことと……。
「そうやって眉間に皺寄せてると、そのままの形で皺になっちゃうよ」
「え!? ちょ、誰のせいで!」
額を押さえて睨みつければ、彼女はははっと笑う。こうやって笑えば、尚更律くんに似ている。
「ねぇ、やっぱり奏ちゃんイケメンだよ! 写真集あったら私買うもん!」
「……何それ。じゃあ、りっちゃんの写真集あったら買うわけ?」
「……買うわ」
「やめとけ」
「なんで!?」
写真集は、目の保養になるし、美しい律くんの色んな表情が載っていたら是非とも見てみたいではないか。
「じゃあ、あっくんの写真集があったらどうすんの?」
「5冊は買う」
「バカじゃないの」
そう言いながら、ゲラゲラ笑っている。よかった、元気そうで。あんなにモデル辞めるだとか、若い子に仕事を取られたと泣きそうな顔をしていたから、心配していた。けれど、どこか吹っ切れた様子の彼女を見たら、こちらまで元気を貰えた。
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