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前進
【47】
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「今日は仕事ないの?」
「うん。昨日オーディション行ってきて、1件仕事決まったから」
「そうなんだ! どんな仕事?」
「charmeの専属モデル」
「シャルム!? シャルムって、あのシャルム!?」
「多分、想像してるcharme」
「あの、外国でも発売してるシャルム!?」
「そうだって。大声出さないでよ、うるさいなぁ……」
奏ちゃんは、片耳を塞いで顔をしかめている。しかし、私にとっては一大事だ。
どんな仕事だって大事な仕事でしょなんていつか説教じみたことを言ってしまったが、奏ちゃんが今まで表紙を飾っていたギャル雑誌なんて目じゃないくらい世界的に有名な雑誌だ。
スーパーモデルがゲストで載るくらいの規模が大きいもの。そんな雑誌に奏ちゃんが専属として載るなんて……。
「専属ってそんなに簡単になれるの?」
「なれるわけないでしょ! オーディション受けたって言ったじゃん。……あんたに言われて、あの後東京に戻ってすぐに髪切った。事務所には勝手なことをしてってめちゃくちゃ怒られたけど」
彼女は、肩を上下させて笑う。そりゃ、表紙を外されたからって奏ちゃんのページがなくなるわけではない。
事務所に相談もなしにガラリと雰囲気を変えてしまえば、今までの雑誌のイメージには合わなくなってしまう。
「モデル辞める気でいるならって言われて思った。最後のチャンスだと思って、これに賭けようって。自分の好きなものばかりじゃなくて、求められているものは何か追及することにした。
charmeでは、ボーイッシュなモデルの枠が空いてたの。人気だった専属モデルが妊娠して活動休止したから。ボーイッシュは抵抗があったけど、りっちゃんがイケメンなことくらい私だって知ってるんだから。そのりっちゃんに似てるって言われたら、少し試したくなっただけ。
だからって、この格好になってからは実績ないし、専属って言ったってまだまだほんの少しのページしか載せてもらえないよ」
頬杖をついて、目を逸らしているが、私は嬉しくて仕方がない。こんなに色んなことに挑戦して、自ら大きな仕事をとってきたのだ。
あんなに泣きそうな顔をしていたのに、彼女はやっぱり強かった。なんて素敵な女性なんだろう。
「奏ちゃん!」
私は、感極まって、思わずそのまま抱きついた。律くんともあまねくんとも違う匂いがした。顔は律くんそっくりなのに、甘い女の子の香り。
「わー! ちょ、何!?」
「私嬉しい! 良かったね! 良かったね!」
「何であんたが私以上に喜んでんのよ」
ふうっと息をつきながらも、彼女はおとなしく私に抱き締められている。さすがモデルなだけあって、とても細くて強く抱き締めたら折れてしまいそうだけれど、程よく筋肉がついていて、彼女もまた日頃から鍛えていることが伺える。
「まどかちゃーん? 誰か来てるの? って、え!? 律!?」
髪をタオルで拭きながらやって来たダリアさんも、律くんと間違えたようで少々上ずったような声を上げた。
「お母さん、これ何とかしてよ」
首だけが動く気配がするから、奏ちゃんがダリアさんの方を向いたのだろう。
「え!? 奏!? やだ、どうしちゃったの?」
もちろん、ダリアさんも私と同じような反応をしている。
奏ちゃんに抱きついたまま、顔を上げれば「もぉ……まどかちゃんと律の浮気現場に遭遇しちゃったかと思って、お母さんちょっと焦っちゃった」と口元を手で押さえて驚いたような顔をしている。
律くんとの浮気現場……実家で堂々とそんなことできません。律くんと浮気なんて絶対にありえないし。
「お母さんまでそんなこと言って。りっちゃんが浮気なんてするわけないでしょ」
「まあ、そうね……。でも、周が好きになるくらいだからわからないわね」
「りっちゃんがその気になったら困るから絶対そういうこと言わないで!」
その気になったらって……。そんなにむきにならなくても、ないってば。
「はいはい。それで、何で2人はイチャイチャしてるの?」
別にイチャイチャしているわけではない。
ダリアさんに事の経緯を話して聞かせた。
「うん。昨日オーディション行ってきて、1件仕事決まったから」
「そうなんだ! どんな仕事?」
「charmeの専属モデル」
「シャルム!? シャルムって、あのシャルム!?」
「多分、想像してるcharme」
「あの、外国でも発売してるシャルム!?」
「そうだって。大声出さないでよ、うるさいなぁ……」
奏ちゃんは、片耳を塞いで顔をしかめている。しかし、私にとっては一大事だ。
どんな仕事だって大事な仕事でしょなんていつか説教じみたことを言ってしまったが、奏ちゃんが今まで表紙を飾っていたギャル雑誌なんて目じゃないくらい世界的に有名な雑誌だ。
スーパーモデルがゲストで載るくらいの規模が大きいもの。そんな雑誌に奏ちゃんが専属として載るなんて……。
「専属ってそんなに簡単になれるの?」
「なれるわけないでしょ! オーディション受けたって言ったじゃん。……あんたに言われて、あの後東京に戻ってすぐに髪切った。事務所には勝手なことをしてってめちゃくちゃ怒られたけど」
彼女は、肩を上下させて笑う。そりゃ、表紙を外されたからって奏ちゃんのページがなくなるわけではない。
事務所に相談もなしにガラリと雰囲気を変えてしまえば、今までの雑誌のイメージには合わなくなってしまう。
「モデル辞める気でいるならって言われて思った。最後のチャンスだと思って、これに賭けようって。自分の好きなものばかりじゃなくて、求められているものは何か追及することにした。
charmeでは、ボーイッシュなモデルの枠が空いてたの。人気だった専属モデルが妊娠して活動休止したから。ボーイッシュは抵抗があったけど、りっちゃんがイケメンなことくらい私だって知ってるんだから。そのりっちゃんに似てるって言われたら、少し試したくなっただけ。
だからって、この格好になってからは実績ないし、専属って言ったってまだまだほんの少しのページしか載せてもらえないよ」
頬杖をついて、目を逸らしているが、私は嬉しくて仕方がない。こんなに色んなことに挑戦して、自ら大きな仕事をとってきたのだ。
あんなに泣きそうな顔をしていたのに、彼女はやっぱり強かった。なんて素敵な女性なんだろう。
「奏ちゃん!」
私は、感極まって、思わずそのまま抱きついた。律くんともあまねくんとも違う匂いがした。顔は律くんそっくりなのに、甘い女の子の香り。
「わー! ちょ、何!?」
「私嬉しい! 良かったね! 良かったね!」
「何であんたが私以上に喜んでんのよ」
ふうっと息をつきながらも、彼女はおとなしく私に抱き締められている。さすがモデルなだけあって、とても細くて強く抱き締めたら折れてしまいそうだけれど、程よく筋肉がついていて、彼女もまた日頃から鍛えていることが伺える。
「まどかちゃーん? 誰か来てるの? って、え!? 律!?」
髪をタオルで拭きながらやって来たダリアさんも、律くんと間違えたようで少々上ずったような声を上げた。
「お母さん、これ何とかしてよ」
首だけが動く気配がするから、奏ちゃんがダリアさんの方を向いたのだろう。
「え!? 奏!? やだ、どうしちゃったの?」
もちろん、ダリアさんも私と同じような反応をしている。
奏ちゃんに抱きついたまま、顔を上げれば「もぉ……まどかちゃんと律の浮気現場に遭遇しちゃったかと思って、お母さんちょっと焦っちゃった」と口元を手で押さえて驚いたような顔をしている。
律くんとの浮気現場……実家で堂々とそんなことできません。律くんと浮気なんて絶対にありえないし。
「お母さんまでそんなこと言って。りっちゃんが浮気なんてするわけないでしょ」
「まあ、そうね……。でも、周が好きになるくらいだからわからないわね」
「りっちゃんがその気になったら困るから絶対そういうこと言わないで!」
その気になったらって……。そんなにむきにならなくても、ないってば。
「はいはい。それで、何で2人はイチャイチャしてるの?」
別にイチャイチャしているわけではない。
ダリアさんに事の経緯を話して聞かせた。
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