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婚姻届
【23】
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指定されたカフェに着くと、彼はすでに中にいた。全国チェーンの人気店だ。
客層は、男女問わず年齢層も幅広い。
奥の席に通され、窓側からは離れている。腰の辺りまでの壁で仕切られた角の席のため、座ると丁度隣の客の顔は見えない。
「こっちまで来てもらってすみません」
「ううん、私こそ仕事中にごめんね。抜けて来ちゃって大丈夫なの?」
「今日は、周からまどかさんと会う日だと聞きました。今の状態で周と会って、余計なことを喋られると困るので」
「余計なことって……」
何となく棘のあるような言い方に違和感を覚える。律くん、怒ってる……?
店員がやって来て、私はアイスカフェオレ、律くんは真夏だというのにホットコーヒーを注文した。
「早速、本題に入りますけど、日記はもう手元にはないんですよね?」
「うん……」
「あなたはそれをどうやって手に入れたんですか?」
私を責める様子はなく、静かに問うものだから、私は正直に日記が見つかった経緯と内容、雅臣の母親が写真に対して訴訟を起こすことも考慮している旨を説明した。
律くんは、途中「それで?」「それから?」「どうして?」なんて言葉を挟みながら、私の話を最後まで聞いた。
私の言葉を遮って発言することもなく、じっと私の目を見ていた。彼の仕事柄だろうか。私よりも余程人の話を聴くことも、聴きたいことのポイントを押さえることにも慣れているようだった。
「そういうことでしたか……。順番に話します。結論から言うと、訴訟についてもあなたとの裁判においても何ら問題はありません」
「え?」
「写真を売った際、2人の関係については記者に言ってあるし、その時の音声テープは残っていますから」
「じゃあ……」
「勝手に記事をでっち上げて、偽りの報道を流したのは雑誌の編集者です」
「……そう。あの、律くんはどこから」
「関わっていたか? まどかさんはどっからどこまで知りたい? 知らなくてもいいこともあると思うんです」
「……内容がわからないからなんとも。全部を聞いたら、何かが変わっちゃうのかな?」
「別に、何も変わらないですよ。周は変わらずあなたを愛しているし、俺達守屋家だってあなたを受け入れる準備はできています。奏も最近ではあなたのことを気に入っているみたいだし、何の問題もない」
「じゃあ……」
「ただ、あなたはどうだろう。少なからず、俺や周に不信感を抱くかもしれない」
律くんは、先程運ばれてきたコーヒーに口をつける。あまねくんと同じ、ブラックのまま。
「不信感……」
「周は、本気であなたのことが好きだし、今後も変わらず大事にしてくれるはずです。それが条件でしたから」
「条件?」
律くんの1つ1つの言葉が引っかかる。謎だらけで、ついていけない。
「あなたを手に入れるための」
「え?」
「……まどかさんは、運命って信じていますか?」
「運命……わからないけど、あまねくんとの出会いは、それに近いものを感じたよ」
あまねくんだって運命かもって思って嬉しくなったって笑ってくれたし。
「それが、仕組まれていたものであっても?」
「な……え?」
「本当に偶然だと思った? 結婚式の帰りも、クリーニング屋も」
「違うの?」
律くんは表情を変えず、A4サイズの茶封筒を出し、そのまま私に差し出した。
私は、律くんの目を一瞥して封筒を開けた。
中には何枚か綴りになった用紙が3冊。結城雅臣、花井麻友、一まどか。ざっと目を通すと、個人情報がずらっと並んでいた。
客層は、男女問わず年齢層も幅広い。
奥の席に通され、窓側からは離れている。腰の辺りまでの壁で仕切られた角の席のため、座ると丁度隣の客の顔は見えない。
「こっちまで来てもらってすみません」
「ううん、私こそ仕事中にごめんね。抜けて来ちゃって大丈夫なの?」
「今日は、周からまどかさんと会う日だと聞きました。今の状態で周と会って、余計なことを喋られると困るので」
「余計なことって……」
何となく棘のあるような言い方に違和感を覚える。律くん、怒ってる……?
店員がやって来て、私はアイスカフェオレ、律くんは真夏だというのにホットコーヒーを注文した。
「早速、本題に入りますけど、日記はもう手元にはないんですよね?」
「うん……」
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私を責める様子はなく、静かに問うものだから、私は正直に日記が見つかった経緯と内容、雅臣の母親が写真に対して訴訟を起こすことも考慮している旨を説明した。
律くんは、途中「それで?」「それから?」「どうして?」なんて言葉を挟みながら、私の話を最後まで聞いた。
私の言葉を遮って発言することもなく、じっと私の目を見ていた。彼の仕事柄だろうか。私よりも余程人の話を聴くことも、聴きたいことのポイントを押さえることにも慣れているようだった。
「そういうことでしたか……。順番に話します。結論から言うと、訴訟についてもあなたとの裁判においても何ら問題はありません」
「え?」
「写真を売った際、2人の関係については記者に言ってあるし、その時の音声テープは残っていますから」
「じゃあ……」
「勝手に記事をでっち上げて、偽りの報道を流したのは雑誌の編集者です」
「……そう。あの、律くんはどこから」
「関わっていたか? まどかさんはどっからどこまで知りたい? 知らなくてもいいこともあると思うんです」
「……内容がわからないからなんとも。全部を聞いたら、何かが変わっちゃうのかな?」
「別に、何も変わらないですよ。周は変わらずあなたを愛しているし、俺達守屋家だってあなたを受け入れる準備はできています。奏も最近ではあなたのことを気に入っているみたいだし、何の問題もない」
「じゃあ……」
「ただ、あなたはどうだろう。少なからず、俺や周に不信感を抱くかもしれない」
律くんは、先程運ばれてきたコーヒーに口をつける。あまねくんと同じ、ブラックのまま。
「不信感……」
「周は、本気であなたのことが好きだし、今後も変わらず大事にしてくれるはずです。それが条件でしたから」
「条件?」
律くんの1つ1つの言葉が引っかかる。謎だらけで、ついていけない。
「あなたを手に入れるための」
「え?」
「……まどかさんは、運命って信じていますか?」
「運命……わからないけど、あまねくんとの出会いは、それに近いものを感じたよ」
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「それが、仕組まれていたものであっても?」
「な……え?」
「本当に偶然だと思った? 結婚式の帰りも、クリーニング屋も」
「違うの?」
律くんは表情を変えず、A4サイズの茶封筒を出し、そのまま私に差し出した。
私は、律くんの目を一瞥して封筒を開けた。
中には何枚か綴りになった用紙が3冊。結城雅臣、花井麻友、一まどか。ざっと目を通すと、個人情報がずらっと並んでいた。
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