【完結】美人過ぎる〇〇はワンコ彼氏に溺愛される

雪村こはる

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婚姻届

【34】

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「それより、もう行った方がいいんじゃないですか? 18時40分過ぎてますよ」

「え!?」

「周と待ち合わせしてるんでしょ?」

「う、うん」

「今の話は、周としてもいいし、しなくてもいいです。ただ、結城の日記について触れれば、機嫌を損ねるか落ち込むか」

「……だよね。菅沼さんのこともあったしな……」

「菅沼さん?」

 律くんは、首を傾げて少し目を開く。パッチリした瞳になると、あまねくんと似ている。      

「ああ、うん。お姉ちゃんの旦那さんなんだけどね。あまねくんに、浮気だと思われたことがあって。私が悪いんだけどさ」

「へぇ。それで、喧嘩でもしたんですか?」

「いや、喧嘩っていうか……」

 泣き出したこと言ったら、絶対おもしろがるよね……。あれは、確実に私が悪いし、不安にさせてしまった結果だし。

 それであまねくんが笑われるのは可哀想だ。

「拗ねた?」

「いや……やめとくよ」

「教えてよ」

「いやいや、ダメだよ。言えない」

「ふーん。じゃあ、直接周に聞こう」

「それはダメ!」

 そんなことをしたら、またあまねくんがあの状況を思い出して嫌な気分になるじゃないか。
 あの事がきっかけで、私達は素直に自分の気持ちを伝えられるようになったけれど、思い出したくない出来事でもある。

「何でですか?」

「忘れさせてあげたいし……」

「ん? 周が? でも、まどかさんが教えてくれないなら直接聞くしかないですよね」

「いやいや、別にそこまで知りたがらなくても」 

「隠されたら知りたくなるじゃないですか」

「知らなくてもいいことだってあるじゃん」

「いや、それを俺の口から聞いたのはあなたじゃないですか。俺だってこちらにとって不利なことを全て話したんだから、それくらいのことを聞く権利はあるでしょ」

 そう言われてしまうと、ぐうの音もでない。隠されていた真実を洗いざらい教えてくれたのは他でもない律くんだ。

「うーん……。じゃあ、あまねくんには、この事言わないでくれる?」

「いいですよ」

「あまねくんのことからかわない?」

「まあ、直接このことには触れないようにしますよ」

「……絶対だよ? 心の中に留めておいてよ?」

「わかりました」

 律くんが深く頷いたのを確認してから、「……菅沼さんの車から降りたら、あまねくんがいてね。すれ違って連絡が上手く取れなかった時だったの。結婚についてもちゃんと返事してなかったから、あの人と結婚するの? って聞きながらその場で号泣されちゃって……」

「号泣?」

「う、うん。子供みたいにぼろぼろ泣かれちゃって、私もどうしていいかと……って律くん!」

 彼は、既にテーブルに頭がくっつきそうな程、上半身を屈めて肩を震わせている。
 そんなに笑わなくても……。

「ははっ、ごめ……」

 いつかこんな笑顔を見たことがあった。たまにこうして無邪気な笑顔を見せてくれる。律くんのこんな顔を見られたら、あまねくんには申し訳ないけれど、少しラッキーだったかななんて思ってしまった。

「絶対あまねくんには内緒だよ」

「わかってる……ははは。裏切らないなぁ……」

 律くんは、目の端を指で拭いながら言う。泣く程笑わなくてもいいのに。

「ああ、いい話が聞けた。今日まどかさんと会えてよかったです」

「楽しんでもらえたようでよかったです」

「本当に。最後にこんな置き土産を用意するなんて、まどかさんも粋ですね」

「いやいや、笑わせるためにした話じゃないからね! くれぐれも、だよ」

「はいはい。じゃあ、出ましょう。周には、俺と会ってたことも言わないで下さいね。2人で会ってたなんて知られたらとんだとばっちりを食うから」

「まさか、律くんにまで」

「それが周だからね。それこそ刺されても嫌だから、あなたとは適度な距離感を保たないと」

 そう言いながら、律くんはまだ笑っている。会計の用紙を持って立ち上がった律くんを追いかけながら、あまねくんにどんな言い訳をしようかと考えなければならなかった。
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