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婚姻届
【36】
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難なく夕食を済ませ、あまねくんと共に2階へ上がる。せっかくここに住むようにと簡易的な部屋を作ったのに、この部屋を使うのは、あまねくんの部屋にいたのと同じくらいだ。
あっちにいったりこっちに来たりで落ち着かないが、きっとそれももう少しの辛抱だ。
雅臣がどうなるかはわからないが、花井麻友に刺された過去を持つ彼が、再び襲ってくるとは思えなかった。
「今日もご飯美味しかったね。まどかさんの料理上手はお母さん似だ」
「そんなことないよ。お母さんの方が私より作れるメニュー豊富だし。やっぱり主婦歴長いと腕もあがるのかな?」
「料理はセンスとも聞くけどね。毎日まどかさんと一緒にご飯作るの楽しみだなぁ」
「毎日お手伝いしてくれるの?」
「もちろん」
座椅子に座ったあまねくんの足の間に座り、後ろから抱き締められた状態でそんな会話をする。
数日会えなかっただけなのに、この温もりも匂いも懐かしく感じる。
「一緒に住むためのお家もそろそろ見に行かなきゃね」
「……うん」
「あまねくん、どうかした?」
「ううん。結婚、いつ許してもらえるかなって……。まだ結城さんのことが全部終わったわけじゃないし。いっそのこと、このままずっと目覚めなきゃ……っ、ごめん」
あまねくんは、途中で言葉を切り、はっとしたかのように私に謝った。
律くんから、あまねくんについて聞いていたからか、雅臣に対する本音が目につく。今までも、気にしていなかっただけで、彼がこんなふうに言っていたこともあったのかもしれない。
「大丈夫だよ。例えあの人が目を覚ましても、私はあまねくんの傍にいるから」
私に嫌われないよう必死な彼の頭を撫で、そのまま引き寄せる。私の首もとに顔を埋める彼の頬に、私も頬を寄せれば、子猫のように鼻先で私の頬をくすぐる。
「あんなことがあったのに?」
「うん。どんなことがあってもあまねくんは私のこと守ってくれるんでしょ?」
「うん。約束したじゃん。一生守るよって」
「そうだね。私もずっとあまねくんと一緒にいるって決めたの。だから、もう少ししたら、改めて結婚の挨拶やり直そう?」
こんな状態で本当に結婚できるのかと不安になってるのは私だけじゃない。実家に帰って、守屋家にお世話になって、仕事も辞めた。それでも、起きた結果は仕方がないことだ。
受け入れて前に進むためには、私達だけでも前向きでなくてはならない。
「まどかさんからそう言ってくれるの嬉しい……。大好き」
「私も。あまねくん大好き」
自然と唇が重なり、2人でふふっと笑いながら額をくっつけた。
「あ、そう言えば今日は誰とお茶してたの?」
不意に聞かれて、飛び上がりそうになる。しまった、何の言い訳も考えてなかった。
「ん? 高校の時の友達だよ」
咄嗟に嘘をついた。
「ふーん、珍しいね。まどかさんから茉紀さん以外の友達が出てくるなんて」
「私にだって、茉紀以外にも友達はいるよ。結婚して子供できると疎遠になっちゃうから、あんまり会う頻度は多くないけどさ」
「そっか。じゃあ、その友達も子供いるんだ?」
「う、うん。買い物に出たから、久しぶりに軽くお茶しないって言われてさ」
「ふーん。でも、子供いるわりにけっこう遅くまでいたね? ご飯作るの大丈夫だったのかな?」
疑っているわけではなさそうだけれど、中々鋭いところを突いてくる。いつかボロが出そうでハラハラする。
あまねくんには申し訳ない気持ちでいっぱいだけれど、律くんの立場を考えると、誤魔化さないとマズイ。そして、律くんのことがバレて、本人に問い詰めようものなら、あまねくんが号泣したことをさらっと言ってしまいかねない。いや、絶対言う。律くんなら言う。
この場はなんとしてでも誤魔化さなければいけない。
「子供っていったって、茉紀っち程小さくもないんだよ。早くに子供が出来た子だから、もう小学生に上がってるの」
「そうなんだ。じゃあ、そんなに早く寝かしつける必要もないんだね」
「うん。旦那さんも帰ってくるの遅いみたいで、子供も友達んちに遊びに行っちゃってるって言ってからさ。それでも、もう少し早く帰るつもりだったんだけど、けっこう話始めたら止まんなくて長居しちゃった」
「久しぶりに会うと積もる話もあるしね。気分転換できたならよかったね」
どうやら完全に信じてくれたようだ。ごめんね、あまねくん。
私は、心の中で何度も謝罪をしながら、律くんとの約束を守った。きっとこれで律くんも約束を守ってくれるはずだ。多分。
あっちにいったりこっちに来たりで落ち着かないが、きっとそれももう少しの辛抱だ。
雅臣がどうなるかはわからないが、花井麻友に刺された過去を持つ彼が、再び襲ってくるとは思えなかった。
「今日もご飯美味しかったね。まどかさんの料理上手はお母さん似だ」
「そんなことないよ。お母さんの方が私より作れるメニュー豊富だし。やっぱり主婦歴長いと腕もあがるのかな?」
「料理はセンスとも聞くけどね。毎日まどかさんと一緒にご飯作るの楽しみだなぁ」
「毎日お手伝いしてくれるの?」
「もちろん」
座椅子に座ったあまねくんの足の間に座り、後ろから抱き締められた状態でそんな会話をする。
数日会えなかっただけなのに、この温もりも匂いも懐かしく感じる。
「一緒に住むためのお家もそろそろ見に行かなきゃね」
「……うん」
「あまねくん、どうかした?」
「ううん。結婚、いつ許してもらえるかなって……。まだ結城さんのことが全部終わったわけじゃないし。いっそのこと、このままずっと目覚めなきゃ……っ、ごめん」
あまねくんは、途中で言葉を切り、はっとしたかのように私に謝った。
律くんから、あまねくんについて聞いていたからか、雅臣に対する本音が目につく。今までも、気にしていなかっただけで、彼がこんなふうに言っていたこともあったのかもしれない。
「大丈夫だよ。例えあの人が目を覚ましても、私はあまねくんの傍にいるから」
私に嫌われないよう必死な彼の頭を撫で、そのまま引き寄せる。私の首もとに顔を埋める彼の頬に、私も頬を寄せれば、子猫のように鼻先で私の頬をくすぐる。
「あんなことがあったのに?」
「うん。どんなことがあってもあまねくんは私のこと守ってくれるんでしょ?」
「うん。約束したじゃん。一生守るよって」
「そうだね。私もずっとあまねくんと一緒にいるって決めたの。だから、もう少ししたら、改めて結婚の挨拶やり直そう?」
こんな状態で本当に結婚できるのかと不安になってるのは私だけじゃない。実家に帰って、守屋家にお世話になって、仕事も辞めた。それでも、起きた結果は仕方がないことだ。
受け入れて前に進むためには、私達だけでも前向きでなくてはならない。
「まどかさんからそう言ってくれるの嬉しい……。大好き」
「私も。あまねくん大好き」
自然と唇が重なり、2人でふふっと笑いながら額をくっつけた。
「あ、そう言えば今日は誰とお茶してたの?」
不意に聞かれて、飛び上がりそうになる。しまった、何の言い訳も考えてなかった。
「ん? 高校の時の友達だよ」
咄嗟に嘘をついた。
「ふーん、珍しいね。まどかさんから茉紀さん以外の友達が出てくるなんて」
「私にだって、茉紀以外にも友達はいるよ。結婚して子供できると疎遠になっちゃうから、あんまり会う頻度は多くないけどさ」
「そっか。じゃあ、その友達も子供いるんだ?」
「う、うん。買い物に出たから、久しぶりに軽くお茶しないって言われてさ」
「ふーん。でも、子供いるわりにけっこう遅くまでいたね? ご飯作るの大丈夫だったのかな?」
疑っているわけではなさそうだけれど、中々鋭いところを突いてくる。いつかボロが出そうでハラハラする。
あまねくんには申し訳ない気持ちでいっぱいだけれど、律くんの立場を考えると、誤魔化さないとマズイ。そして、律くんのことがバレて、本人に問い詰めようものなら、あまねくんが号泣したことをさらっと言ってしまいかねない。いや、絶対言う。律くんなら言う。
この場はなんとしてでも誤魔化さなければいけない。
「子供っていったって、茉紀っち程小さくもないんだよ。早くに子供が出来た子だから、もう小学生に上がってるの」
「そうなんだ。じゃあ、そんなに早く寝かしつける必要もないんだね」
「うん。旦那さんも帰ってくるの遅いみたいで、子供も友達んちに遊びに行っちゃってるって言ってからさ。それでも、もう少し早く帰るつもりだったんだけど、けっこう話始めたら止まんなくて長居しちゃった」
「久しぶりに会うと積もる話もあるしね。気分転換できたならよかったね」
どうやら完全に信じてくれたようだ。ごめんね、あまねくん。
私は、心の中で何度も謝罪をしながら、律くんとの約束を守った。きっとこれで律くんも約束を守ってくれるはずだ。多分。
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