257 / 289
婚姻届
【42】
しおりを挟む
奏ちゃんと合流してからわずか15分程で「僕はそろそろ行かなくちゃ」と古河医師は退席した。
「仕事の休憩中に抜けて来てくれたんだね」
「うん。私もほとんどむこうにいるから、お互いに会える時間作らないと会えないからね」
「そうだよね。暫く遠距離恋愛続けるんだね」
「まあね。私もやりたいこと見つかったから。それに、私はまだ結婚を焦る年でもないし」
「あー、そうですか」
こうやってつっかかってくるところはおそらくずっと変わらないだろう。しかし、奏ちゃんが言うように、やりたいことがあるのなら、別に結婚を急ぐ必要なんてない。
私だって結婚なんて考えずに仕事に没頭していた時期だってあったのだ。その気持ちはよくわかる。けれど、ほどほどにしておかないと、私のように気付けば30代なんて悲しい結末になりかねない。
きりのいいところで、奏ちゃんにも結婚して幸せになってもらいたいものだ。
私は、暫く奏ちゃんと2人で会話をしてから帰宅した。
彼女にもらった雑誌は、大切に実家の本棚にしまった。これから毎日あのページを捲ろう。
もっともっと大きな仕事がもらえますように。そう願いながら、1日の終わりにもう1度奏ちゃんの姿を見てから目を閉じた。
ーー顔合わせ当日、あまねくんは緊張した面持ちで、ネクタイを締め直した。
「何回もここに来てるけど、やっぱり顔合わせの仕切り直しって考えると緊張するなぁ」
「大丈夫! もう反対されることなんてないよ! それどころか、お母さんがあまねくんは若いし、お父さんがそんなにうるさくしてるとその内まどかが捨てられるかもしれないわよ。なんて言うから、最初はその程度の男なら何とかって言ってたけど、急に弱気になっちゃってさ。
あまねくんを逃したら、無職で昔の男に刺されそうになった女なんか誰も嫁にもらってくれないぞなんて言い出して、おろおろしてたんだから」
「あのお父さんが?」
あまねくんは、きょとんとした表情を見せた後、顔をくしゃっとさせて笑った。
本当にあまねくんを逃したら、私はおそらく結婚できない。というより、あまねくん以外の男性と結婚するくらいなら、しなくてもいい。
私が父の前で「お父さんとお母さんが先に死んじゃったら、私は一人ぼっちで老後を過ごすんだね」とぼそりと呟いたものだから、現実を見据えて恐ろしくなったのかもしれない。
「ほら、緊張しないで。ちゃんとやり直ししよう」
あまねくんの手を引いて、居間に入る。既にそこには両親と姉のさくら、そして菅沼さんがいる。
光景は、以前の顔合わせの時と同じだ。ただあの時は、私が雅臣に殴られて帰宅し、それだけで重い空気が漂っていた。けれど、今日は違う。姉はにこやかだし、母はせっせと食事を配っているし、雰囲気はとても良い。
顔合わせとは、本来こうあるべきだと思わされた気がした。
「改めて言わせて下さい。これからも、僕がまどかさんを守ります。なので、結婚させて下さい」
食事前にあまねくんから父へそう伝えられた。
「……君には、色々と大変な思いをさせた。娘の命可愛さから、無理難題を突きつけたが、それでも見放さずに最後までまどかのことを守ってくれた。君があの場であの男に刺されてもおかしくはなかった。それでも、まだまどかを嫁に欲しいと言ってくれる君となら、きっとまどかは幸せだろう。うちの娘をよろしく頼みます」
父はそう言って深く頭を下げた。私とあまねくんは、顔を見合せて小さく拳を握りしめた。
晴れて私達は結婚を許された。あの時の顔合わせは何だったのかと言いたくなる程、あっさり許可が出たことに拍子抜けではあったが、その後酒を飲んで調子をよくした父が饒舌になる姿は、姉の結婚前の顔合わせを思い出させた。
あまねくんが父の酒に付き合い、散々飲まされていたが、父の方がどんどん酔っていき、仕舞いにはあまねくんのことをこれでもかと言うほど褒め始めた。
まったく、調子のいい父親だ。
半ば呆れながらも、あまねくんが楽しそうにしてくれていたので、その笑顔に免じて父の非礼の数々を今は忘れてやることにした。
「仕事の休憩中に抜けて来てくれたんだね」
「うん。私もほとんどむこうにいるから、お互いに会える時間作らないと会えないからね」
「そうだよね。暫く遠距離恋愛続けるんだね」
「まあね。私もやりたいこと見つかったから。それに、私はまだ結婚を焦る年でもないし」
「あー、そうですか」
こうやってつっかかってくるところはおそらくずっと変わらないだろう。しかし、奏ちゃんが言うように、やりたいことがあるのなら、別に結婚を急ぐ必要なんてない。
私だって結婚なんて考えずに仕事に没頭していた時期だってあったのだ。その気持ちはよくわかる。けれど、ほどほどにしておかないと、私のように気付けば30代なんて悲しい結末になりかねない。
きりのいいところで、奏ちゃんにも結婚して幸せになってもらいたいものだ。
私は、暫く奏ちゃんと2人で会話をしてから帰宅した。
彼女にもらった雑誌は、大切に実家の本棚にしまった。これから毎日あのページを捲ろう。
もっともっと大きな仕事がもらえますように。そう願いながら、1日の終わりにもう1度奏ちゃんの姿を見てから目を閉じた。
ーー顔合わせ当日、あまねくんは緊張した面持ちで、ネクタイを締め直した。
「何回もここに来てるけど、やっぱり顔合わせの仕切り直しって考えると緊張するなぁ」
「大丈夫! もう反対されることなんてないよ! それどころか、お母さんがあまねくんは若いし、お父さんがそんなにうるさくしてるとその内まどかが捨てられるかもしれないわよ。なんて言うから、最初はその程度の男なら何とかって言ってたけど、急に弱気になっちゃってさ。
あまねくんを逃したら、無職で昔の男に刺されそうになった女なんか誰も嫁にもらってくれないぞなんて言い出して、おろおろしてたんだから」
「あのお父さんが?」
あまねくんは、きょとんとした表情を見せた後、顔をくしゃっとさせて笑った。
本当にあまねくんを逃したら、私はおそらく結婚できない。というより、あまねくん以外の男性と結婚するくらいなら、しなくてもいい。
私が父の前で「お父さんとお母さんが先に死んじゃったら、私は一人ぼっちで老後を過ごすんだね」とぼそりと呟いたものだから、現実を見据えて恐ろしくなったのかもしれない。
「ほら、緊張しないで。ちゃんとやり直ししよう」
あまねくんの手を引いて、居間に入る。既にそこには両親と姉のさくら、そして菅沼さんがいる。
光景は、以前の顔合わせの時と同じだ。ただあの時は、私が雅臣に殴られて帰宅し、それだけで重い空気が漂っていた。けれど、今日は違う。姉はにこやかだし、母はせっせと食事を配っているし、雰囲気はとても良い。
顔合わせとは、本来こうあるべきだと思わされた気がした。
「改めて言わせて下さい。これからも、僕がまどかさんを守ります。なので、結婚させて下さい」
食事前にあまねくんから父へそう伝えられた。
「……君には、色々と大変な思いをさせた。娘の命可愛さから、無理難題を突きつけたが、それでも見放さずに最後までまどかのことを守ってくれた。君があの場であの男に刺されてもおかしくはなかった。それでも、まだまどかを嫁に欲しいと言ってくれる君となら、きっとまどかは幸せだろう。うちの娘をよろしく頼みます」
父はそう言って深く頭を下げた。私とあまねくんは、顔を見合せて小さく拳を握りしめた。
晴れて私達は結婚を許された。あの時の顔合わせは何だったのかと言いたくなる程、あっさり許可が出たことに拍子抜けではあったが、その後酒を飲んで調子をよくした父が饒舌になる姿は、姉の結婚前の顔合わせを思い出させた。
あまねくんが父の酒に付き合い、散々飲まされていたが、父の方がどんどん酔っていき、仕舞いにはあまねくんのことをこれでもかと言うほど褒め始めた。
まったく、調子のいい父親だ。
半ば呆れながらも、あまねくんが楽しそうにしてくれていたので、その笑顔に免じて父の非礼の数々を今は忘れてやることにした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる