272 / 289
婚姻届
【57】
しおりを挟む「突然すみません」
「いえ……。主人の同級生の方なんですね」
主人なんて言い方、初めてした。入籍当日はこんな日がくるかもって浮かれていたけど、初めて使うのがこんな時なんて。
まだまだ結婚したことにも慣れないのに、女の子が訪ねて来たことに動揺している私。
私は、あまねくんの妻なんだから。堂々としいればいいの。そう自分に言い聞かせ、精一杯笑顔を作る。
目の前の可愛い女性を見て、ちゃんと化粧をして着替えておいてよかったと思った。
「主人って……周、……守屋くん結婚したんですか? ……あなたと?」
「ええ。聞いてませんか?」
今、あまねって言った? いや、くん付けするつもりだったかもしれないし。
つい、律くんのような一線を引いた物言いになる。
「あ、はい。私、転勤で海外にいたものですから……昨日戻ってきたばかりで。急に海外転勤が決まって本を返す暇もなく向こうに行ってしまったので、こっちに帰って来たら、すぐに返そうって思ってたんです」
「そうだったんですか……」
よかった。定期的に会っていたわけではなさそうだ。
「あの、守屋くんは?」
「今日はまだ帰宅してません」
「そうでしたか……。では、渡しておいてもらってもいいですか?」
「はい」
返事をすると、彼女は肩にかけていたベージュのバッグを手前に持ってきて、中に手を入れた。
ふと目に入ったのは、持ち手の取り付け部分にぶら下がったくまのキーホルダー。全身がメタリック調で、手足が動くタイプのものだ。
「……可愛いキーホルダー」
思わずぽろっと呟いてしまった。
「あ、これ。彼がくれたんです。動物園に行った時に」
彼女は、ほんのり顔を赤らめて微笑んだ。なんだ……彼氏いるんじゃん。
ほっとして、ようやく私も笑みが溢れた。
「優しい彼氏さんですね」
「はい。……本当に」
彼女は、ふっと笑ってから本を取り出した。厚さ2cm程の文庫本だ。
受け取った本の表紙には〔データ分析から学ぶマクロ経済学〕と書かれている。
う……難しそう。そうか、あまねくんは税理士さんだから、経済学部出身なんだ……。
私、そんなことも知らない。
少し気落ちし、彼女を見る。一瞬表情のなかった彼女は、にっこり微笑み「お願いします」と言った。
「……はい」
やっぱり何か、嫌な感じ。別に何をされたわけでもない。それでも何か、嫌なんだ。
彼女が帰った後、本を見つめた。コーンスープの匂いがする家の中で、私は深い溜め息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる