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婚姻届
【58】
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あまねくんの帰宅後、一緒に食事をしながら考えるのは、あの女性のこと。
名前聞くの忘れちゃった……。
「今日グラタンなの嬉しい。何か特別な日だっけ?」
「特別な日じゃなくたってグラタンくらい作るよ」
嬉しそうにグラタンを頬張っているあまねくん。初めて料理を振る舞った時も、こんなふうに美味しそうに食べてくれた。
それが嬉しくて、何度も彼には食事を作った。
「まどかさん、何か元気ない?」
「え!? ううん、初めてあまねくんにグラタン作った時のこと思い出してた」
「ああ……。そうなんだ。嬉しかったよ、家に呼んでくれて」
「うん。だって、凄く食べたそうにしてたから」
「それもそうだけど……本当はまどかさんちに行きたい口実」
「え!?」
驚いて顔を上げる。彼はスプーンを握ったまま、照れ臭そうにへへっと笑う。
「グラタン、大好きだけど……。本当は単なる下心だよ」
「そ、そそそうだったの!?」
「ふふ。まどかさんと2人きりになりたかったから」
「そんなこととは露知らず……」
「一緒にご飯作るの楽しかった。玉ねぎ切ってて泣いちゃうまどかさんも可愛かったし……。本当は、あの時もう食べちゃいたかった」
「え? 食べたじゃん」
「じゃなくて、まどかさんをだよ」
あまねくんはクスクス笑ってグラタンを口に運ぶ。
え?
「え!?」
ぐーっと体の底から熱が込み上げる。私、きっと今真っ赤な顔してる。
恥ずかしさのあまり、両頬を手で覆う。
「涙見たら、キスしたくてたまんなかった」
「っ……」
「あの時、まどかさん俺のこと可愛いって言った。覚えてる?」
「う、うん……」
「子供扱いされてるみたいで悔しくてさ。あの場で押し倒して、食べちゃおうかと思った」
「そ、そ、そ……」
「多分、あの時まどかさんに笑ってあまねくんはまだ子供だよって言われたら、歯止めきかなかったと思う」
「な……で……」
「年下だって男だもん。無理にでも男として意識させたいって思うじゃん」
「そういう……もんなの?」
「だって、子供だって言われたら望みないみたいじゃん。でも、しなくてよかった。そのおかげでまどかさんのこと大事にしてあげられる」
彼が、私のことをとても愛しそうに見つめるから、私の心臓はバクバクと音を荒げる。結婚してもこんなにドキドキさせられるなんて思ってなかった。
「う、うん……。大事にしてもらってる」
そうだよ。こんなに大事にしてもらってるじゃん。体張って命懸けで守ってもらってるじゃん。たかだか、女の子が訪ねて来たくらいで何動揺してんのよ、私。
「あのね。さっき、あまねくんの大学時代の同級生が来たよ」
「え?」
「名前聞くの忘れちゃったんだけど……本を届けに来てくれたの」
「本?」
「なんか、難しそうな経済学の本だったよ。あっちのテーブルに置いて……あまねくん?」
彼は、スプーンを持つ手を止めて、目を大きく見開いたまま硬直する。
「……会ったの?」
「え? ……うん。あまねくんに渡して欲しいって言われて……」
「他に何か言ってた?」
「う、ううん……」
「そう……」
あまねくんは、ほっとしたように軽く息をついて、再び手を動かした。
「あまねくんが結婚したこと知らなかったみたい」
「うん。言ってないから」
「……仲良かったの?」
「うん。5人でいつも一緒にいたんだ」
「5人?」
「そう。皆学部バラバラだったけど、何となく仲良くなって」
私は短大を出ているけれど、福祉系だったから圧倒的に女子生徒の方が多く、男女混合で数人仲良くしていたという経験がない。
大学時代のあまねくんのことを私は知らない。あの女の子は知っていて、私の知らないあまねくん。
「ふーん……なんていう子なの?」
「……本條陽菜」
「ひな……可愛い名前」
「まどかさんの方が可愛いよ」
何でかな。こんなに優しく笑ってくれるのに、何となく辛い。こんなにたくさん好きが伝わってくるのに、今まであった安心感が溶けていくみたい。
ねぇ、あまねくん。陽菜ちゃんってただの同級生?
聞きたいけど、聞けなかった。チクチク胸が痛くなった。
名前聞くの忘れちゃった……。
「今日グラタンなの嬉しい。何か特別な日だっけ?」
「特別な日じゃなくたってグラタンくらい作るよ」
嬉しそうにグラタンを頬張っているあまねくん。初めて料理を振る舞った時も、こんなふうに美味しそうに食べてくれた。
それが嬉しくて、何度も彼には食事を作った。
「まどかさん、何か元気ない?」
「え!? ううん、初めてあまねくんにグラタン作った時のこと思い出してた」
「ああ……。そうなんだ。嬉しかったよ、家に呼んでくれて」
「うん。だって、凄く食べたそうにしてたから」
「それもそうだけど……本当はまどかさんちに行きたい口実」
「え!?」
驚いて顔を上げる。彼はスプーンを握ったまま、照れ臭そうにへへっと笑う。
「グラタン、大好きだけど……。本当は単なる下心だよ」
「そ、そそそうだったの!?」
「ふふ。まどかさんと2人きりになりたかったから」
「そんなこととは露知らず……」
「一緒にご飯作るの楽しかった。玉ねぎ切ってて泣いちゃうまどかさんも可愛かったし……。本当は、あの時もう食べちゃいたかった」
「え? 食べたじゃん」
「じゃなくて、まどかさんをだよ」
あまねくんはクスクス笑ってグラタンを口に運ぶ。
え?
「え!?」
ぐーっと体の底から熱が込み上げる。私、きっと今真っ赤な顔してる。
恥ずかしさのあまり、両頬を手で覆う。
「涙見たら、キスしたくてたまんなかった」
「っ……」
「あの時、まどかさん俺のこと可愛いって言った。覚えてる?」
「う、うん……」
「子供扱いされてるみたいで悔しくてさ。あの場で押し倒して、食べちゃおうかと思った」
「そ、そ、そ……」
「多分、あの時まどかさんに笑ってあまねくんはまだ子供だよって言われたら、歯止めきかなかったと思う」
「な……で……」
「年下だって男だもん。無理にでも男として意識させたいって思うじゃん」
「そういう……もんなの?」
「だって、子供だって言われたら望みないみたいじゃん。でも、しなくてよかった。そのおかげでまどかさんのこと大事にしてあげられる」
彼が、私のことをとても愛しそうに見つめるから、私の心臓はバクバクと音を荒げる。結婚してもこんなにドキドキさせられるなんて思ってなかった。
「う、うん……。大事にしてもらってる」
そうだよ。こんなに大事にしてもらってるじゃん。体張って命懸けで守ってもらってるじゃん。たかだか、女の子が訪ねて来たくらいで何動揺してんのよ、私。
「あのね。さっき、あまねくんの大学時代の同級生が来たよ」
「え?」
「名前聞くの忘れちゃったんだけど……本を届けに来てくれたの」
「本?」
「なんか、難しそうな経済学の本だったよ。あっちのテーブルに置いて……あまねくん?」
彼は、スプーンを持つ手を止めて、目を大きく見開いたまま硬直する。
「……会ったの?」
「え? ……うん。あまねくんに渡して欲しいって言われて……」
「他に何か言ってた?」
「う、ううん……」
「そう……」
あまねくんは、ほっとしたように軽く息をついて、再び手を動かした。
「あまねくんが結婚したこと知らなかったみたい」
「うん。言ってないから」
「……仲良かったの?」
「うん。5人でいつも一緒にいたんだ」
「5人?」
「そう。皆学部バラバラだったけど、何となく仲良くなって」
私は短大を出ているけれど、福祉系だったから圧倒的に女子生徒の方が多く、男女混合で数人仲良くしていたという経験がない。
大学時代のあまねくんのことを私は知らない。あの女の子は知っていて、私の知らないあまねくん。
「ふーん……なんていう子なの?」
「……本條陽菜」
「ひな……可愛い名前」
「まどかさんの方が可愛いよ」
何でかな。こんなに優しく笑ってくれるのに、何となく辛い。こんなにたくさん好きが伝わってくるのに、今まであった安心感が溶けていくみたい。
ねぇ、あまねくん。陽菜ちゃんってただの同級生?
聞きたいけど、聞けなかった。チクチク胸が痛くなった。
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