【完結】美人過ぎる〇〇はワンコ彼氏に溺愛される

雪村こはる

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婚姻届

【59】

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 食後、あまねくんは寝室にこもってしまった。気付かれないようにそうっとドアを開いて見れば、あの女性から受け取った本を必死になって開いていた。

 何してるの? そうやって一言聞けばいいだけなのに……。

 どうやら内容を確認しているわけではなさそうで、何が目的で本を開いているのかわからなかった。
 こんなことなら、難しそうな本だと敬遠しないで中身を開いて見ればよかった。

 もしかしたら、本に直接あまねくんへのメッセージが書かれているんじゃないかなんてことを思ってみたり。

 でも、何かを想像する度に不安になる。あまねくんと結婚したら、幸せになれると思ったのに……。

 俺が一生守るよって言ったくせに……。

 お腹をさすりながら、息を吐く。そっとドアを閉めると悲しい気持ちでいっぱいになった。

 ちょうどそこで〔お風呂が沸きました〕と音声が聞こえる。
 まいったな……。私も着替えは寝室だ。明日もあまねくんは仕事だし、早くお風呂に入って寝た方がいい。
 そうは思うけれど、切なくて、悲しくて、複雑な気持ちになる。

「……あまねくん、お風呂沸いたよ」

 ドアをノックし、意を決して声をかける。

「あ、うん……」

「開けるよ?」

「うん」

 ドアを開けると、本を閉じておりスマホを触っているあまねくん。今の今まで本開いていたくせに……。

「お風呂……」

「まどかさん、先に入ってきたら?」

 いつもなら、一緒に入る? って聞くくせに……。

「ううん……あの……一緒に入ろうかな?」

 少しでも関心を引きたくてそう言えば、「え?」と驚いた顔をする彼。にっこり笑って「珍しいね。まどかさんから誘ってくれるの嬉しい」そう言って笑ってくれると思ってたのに……。

「いや……今日はちょっと疲れちゃった」

 そう言って私の視線を逸らすあまねくん。 

「そ、そっか。じゃあ、あまねくん先に入る?」

「ううん、まどかさん先に行ってきて」

「うん……」

 寂しい……。拒絶された気分だ。あの陽菜って子の話題になってから彼がおかしい。
 あまねくんにとってあの子はなんなんだろう。

 転勤で海外に行ったって言ってたな……。あの子が海外に行っちゃったから、代わりに私と結婚したのかな……。

 考えなくていいことまで考え始めたら辛くて、私はおとなしく着替えを持ってお風呂に行った。

 シャワーを浴びていても、浴槽に浸かっていても、ドライヤーをかけていても、考えるのはあの陽菜という子と、あの本。
 あの本に何があるんだろう。

 頭が乾いてから脱衣場を出ると、あまねくんはリビングのソファに座っていた。

「お風呂出たよ」

「うん。俺も入ってくる」

 そう言って彼は微笑むと、私と入れ違いに脱衣場へと入っていく。
 
 静寂の中、寝室のドアを開けた。ひんやりとした部屋の中、置き去りにされていた一冊の本。
 一体なんだったんだろう。そっと開けて1枚ずつ捲る。けれど、中は普通の難しい本だった。
 私が思っていたようなメッセージなんてなくて、ただただ虚しい気持ちになった。

 一緒に住んだらもっとあまねくんのことが知れると思ったのに……。もっと理解できると思ったのに。

 あまねくん、全然わかんないよ。寂しいよ……。

 まともに彼の顔を見れそうになくて、電気を消してベッドに潜り込む。一緒のベッドなんて気まずいな……。
 まだまだ新婚なのに、こんなことを考えなければならないなんて悲しすぎる。

 あんなに結婚したいと言ってくれたのに。子供ができて嬉しいと言ってくれたのに。
 隠し事なんてしてほしくなかった。

 涙が溢れそうで、ぎゅっと目を閉じる。
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