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婚姻届
【60】
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どれ程そうしていたか、ドアが開く音がして、あまねくんの気配を感じた。
「まどかさん? ……寝ちゃった?」
彼がベッドに座った気配がする。いつもなら笑って彼を受け入れるのに、今はそれが出来ない。
必死に寝たふりをしようと、無言のまま目を瞑る。
そっと彼が近付いてきて、私の頭にキスを落とした。
もしかしたらあの子にもこうやって……一瞬過った考えに震えが止まらなくなった。
「っ……わらないで」
ほとんど、無意識だった。
「まどかさん?」
「触らないで!」
あまねくんの体を押し返し、逃げるように壁に張り付いた。
「……まどかさん?」
あの子にも同じように優しくして、触って、キスしたんじゃないか。
そんなの嫌だ。そんな手で触らないで。他の子と同じようになんてしないで。
考えたら、涙が溢れて止まらなかった。体の震えも沸き上がる一方で、こんなにも好きなのに、とても汚らわしく見えた。
「ごめ……触ってほしくない。ごめんなさい……ごめ……」
「まどかさん……やっぱり、見たの?」
「……え?」
「本の中にあったもの……」
「……」
あまねくんの静かな声。電気を暗くしてしまったから、彼の表情は見えないけれど、動揺しているようだった。
しかし、次の瞬間「ごめん! 本当にごめん! もうしないから!」そう彼が叫んだ。
ああ、そうか……。やっぱり彼女は特別な人だったんだ。そう思ったら、自然と体の力が抜けた。
「もう二度としないって誓うから……俺のこと、嫌いにならないで……」
布団をぎゅっと握りしめて、彼が震えている。
「まどかさんとしかしないから……もう、隠れてしたりしないからっ……」
いつかの声に似ていた。彼が菅沼さんとの浮気を疑ったあの時のよう。必死で、鼻をすすって訴えかける……。
「いつからなの……?」
高圧的に責める気にはなれなかった。静かにそう彼に問う。
「……大学の時から」
彼はか細い声でそう答えた。
「今まで?」
「……うん」
あまねくんはそういう人じゃないと思ってた。心から信用していたのに。まさか自分が浮気されていたなんて……。
「そう……」
「ごめん……。まどかさんごめんね。俺、まどかさんに嫌われたくなくて言い出せなかった……。まどかさんの妊娠わかってから触れないし……余計に……」
最低。嫌われたくないなら、何で浮気なんて……。
「あの子にはなんて言うの?」
「……ちゃんと謝るよ。会って謝る」
「……そう。私との結婚は? もうやめる?」
「嫌だよ! 俺、本当にまどかさんのこと好きなんだよ! まどかさんがいなきゃ……」
なんて都合のいい話だろうか。自分が悪いのに……。
ぐっと涙を我慢する。それでも、ぽろっと頬を伝うのは、色んな感情が入り交じるからだ。
「あまねくんは勝手だね……。それなら、何で浮気なんてしたの?」
「……何のこと?」
あまねくんは、暫し沈黙の後静かにそう言った。
「え? だって、浮気したんでしょ?」
「してないよ! 俺は、まどかさんでしか抜いてないよ!」
「……は? 何の話?」
「え?」
暫く2人で黙り込む。
「え?」
そして、2人で聞き返す。
「あまねくん、あの陽菜って子と浮気してたんじゃないの?」
「は!? 違うよ! 陽菜ちゃんは大学時代に仲良かっただけだって! 全然タイプじゃないし!」
「え……? だって、まどかさん以外とはしないからって……」
「え? ……だって、まどかさん俺がこっそりまどかさんの写真で抜いてたから怒ってたんでしょ?」
「はぁ? 抜いてたって……」
「だから、オナ……」
「言わんでいい!」
どういうこと……? 話がまるで噛み合っていない。
「あの本には何があったの?」
もうこの際聞くしかない。
「え? ……見たわけじゃなかったの?」
「私はてっきり……あの陽菜って子が来たって話した時からあまねくんの様子が変だったから、浮気でもしてるんじゃないかって思ったんだよ。元カノだったんじゃないかとか……」
「……なんだぁ……。そっか、よかった。よかっ……」
あまねくんは、膝を抱えて顔を埋めた。
「……全然よくないんだけど」
「……浮気なんてしないよ。俺、まどかさんだけだよって何回も言ったじゃん。あの本ね……。ちょっと、電気つけるね」
そう言って彼は電気を灯した。
「まどかさん? ……寝ちゃった?」
彼がベッドに座った気配がする。いつもなら笑って彼を受け入れるのに、今はそれが出来ない。
必死に寝たふりをしようと、無言のまま目を瞑る。
そっと彼が近付いてきて、私の頭にキスを落とした。
もしかしたらあの子にもこうやって……一瞬過った考えに震えが止まらなくなった。
「っ……わらないで」
ほとんど、無意識だった。
「まどかさん?」
「触らないで!」
あまねくんの体を押し返し、逃げるように壁に張り付いた。
「……まどかさん?」
あの子にも同じように優しくして、触って、キスしたんじゃないか。
そんなの嫌だ。そんな手で触らないで。他の子と同じようになんてしないで。
考えたら、涙が溢れて止まらなかった。体の震えも沸き上がる一方で、こんなにも好きなのに、とても汚らわしく見えた。
「ごめ……触ってほしくない。ごめんなさい……ごめ……」
「まどかさん……やっぱり、見たの?」
「……え?」
「本の中にあったもの……」
「……」
あまねくんの静かな声。電気を暗くしてしまったから、彼の表情は見えないけれど、動揺しているようだった。
しかし、次の瞬間「ごめん! 本当にごめん! もうしないから!」そう彼が叫んだ。
ああ、そうか……。やっぱり彼女は特別な人だったんだ。そう思ったら、自然と体の力が抜けた。
「もう二度としないって誓うから……俺のこと、嫌いにならないで……」
布団をぎゅっと握りしめて、彼が震えている。
「まどかさんとしかしないから……もう、隠れてしたりしないからっ……」
いつかの声に似ていた。彼が菅沼さんとの浮気を疑ったあの時のよう。必死で、鼻をすすって訴えかける……。
「いつからなの……?」
高圧的に責める気にはなれなかった。静かにそう彼に問う。
「……大学の時から」
彼はか細い声でそう答えた。
「今まで?」
「……うん」
あまねくんはそういう人じゃないと思ってた。心から信用していたのに。まさか自分が浮気されていたなんて……。
「そう……」
「ごめん……。まどかさんごめんね。俺、まどかさんに嫌われたくなくて言い出せなかった……。まどかさんの妊娠わかってから触れないし……余計に……」
最低。嫌われたくないなら、何で浮気なんて……。
「あの子にはなんて言うの?」
「……ちゃんと謝るよ。会って謝る」
「……そう。私との結婚は? もうやめる?」
「嫌だよ! 俺、本当にまどかさんのこと好きなんだよ! まどかさんがいなきゃ……」
なんて都合のいい話だろうか。自分が悪いのに……。
ぐっと涙を我慢する。それでも、ぽろっと頬を伝うのは、色んな感情が入り交じるからだ。
「あまねくんは勝手だね……。それなら、何で浮気なんてしたの?」
「……何のこと?」
あまねくんは、暫し沈黙の後静かにそう言った。
「え? だって、浮気したんでしょ?」
「してないよ! 俺は、まどかさんでしか抜いてないよ!」
「……は? 何の話?」
「え?」
暫く2人で黙り込む。
「え?」
そして、2人で聞き返す。
「あまねくん、あの陽菜って子と浮気してたんじゃないの?」
「は!? 違うよ! 陽菜ちゃんは大学時代に仲良かっただけだって! 全然タイプじゃないし!」
「え……? だって、まどかさん以外とはしないからって……」
「え? ……だって、まどかさん俺がこっそりまどかさんの写真で抜いてたから怒ってたんでしょ?」
「はぁ? 抜いてたって……」
「だから、オナ……」
「言わんでいい!」
どういうこと……? 話がまるで噛み合っていない。
「あの本には何があったの?」
もうこの際聞くしかない。
「え? ……見たわけじゃなかったの?」
「私はてっきり……あの陽菜って子が来たって話した時からあまねくんの様子が変だったから、浮気でもしてるんじゃないかって思ったんだよ。元カノだったんじゃないかとか……」
「……なんだぁ……。そっか、よかった。よかっ……」
あまねくんは、膝を抱えて顔を埋めた。
「……全然よくないんだけど」
「……浮気なんてしないよ。俺、まどかさんだけだよって何回も言ったじゃん。あの本ね……。ちょっと、電気つけるね」
そう言って彼は電気を灯した。
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