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嫌いなアイツ

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 凪は美容院のドアを開け、真っ直ぐ受付に向かう。広い店内はぎっしりと客で埋めつくされていた。
 雑誌やテレビでも何度も紹介されている有名な店なのだ。理想の髪型にしてくれるのはもちろんのこと、おまかせにしても似合う髪型を見出し、傷み過ぎてどうにもならない状態から1日で復活させることができるほど優れた美容師が揃っていた。
 アシスタントとしての入社も厳しい面接の上で合否が決まる。厳しい技術試験をクリアしてからようやくハサミを持つことができるのは当然として、ここはカリスマと呼ばれている美容師が存在する店だ。
 その美容師に憧れて入社したものの、挫折を味わって退店した者が後を絶たない。

 そんなカリスマを予約するために何ヶ月も客は待つ。向こう側1年まで予約はビッシリ埋まっているらしいと凪も聞いた事があった。

「いらっしゃい、凪くん」

 担当の米山よねやまが笑顔で顔を出した。会員カードを受け取ると、素早く予約の確認をした。

「今日もめちゃくちゃ混んでますね」

「んねー。まあ、ほとんど成田さんのお客さん」

「あー、そうっすよね」

 凪はははっと乾いた笑いを浮かべた。凪がこの美容院に通うようになったのは2年前からだ。同じ店で働いているセラピストが急に垢抜けた気がした。グングン指名を伸ばし、底辺に近かったはずが凪のすぐそばまでランキングを上げてきたのだ。

「勢い凄くない?」

「やっぱ髪型のおかげですかね? 前の宣材写真の時、全く指名入らなかったのに撮影の日に美容院行ってから撮ったんですよ。そしたら写真変えた途端、新規指名爆上がりです」

 嘘だろ。そうは思うものの、凪から見ても写真が同一人物だとは思えなかった。写真だけではなく、実物も何割増しにも見える。
 髪型だけでそんなに変わる? 半信半疑で店名を尋ねればここを教えられたのだ。

「成田さんって人にやってもらったんですよ! でも、成田さんの予約って半年待ちで。撮影日に合わせてようやく予約取れたんです!」

 そう言って喜んでいた後輩。興味本位で予約を取ろうとした凪だったが、凪が電話した時には1年待ちだと言われたのだ。

 誰が1年も待つかよ。苛立ちながら「じゃあ、指名なしで」と言ったものだから、その時の担当者となったのが米山だった。
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