ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

雪村こはる

文字の大きさ
23 / 324
嫌いなアイツ

06

しおりを挟む
「今日はカットとカラーとあとまたパーマあててく感じかな」

 席に案内した米山が、凪の髪を触りながら言った。鏡に映る米山に向かって凪は小さく頷いた。
 凪が座る席は比較的出入口に近いところだ。そこから一直線に6席並び、鏡を隔てて同じように席がある。その奥には角を曲がるようにして広い空間があり、そこにも何席もあるようだった。

 美容師達はそこを『成田ブース』と呼んでいた。メンズカットを売りにしている成田の予約は1日に何人も訪れる。
 シャンプー、カラー、パーマはほとんどアシスタントが行い、成田はカットのみに集中する。もちろんアシスタントが行った技術の確認はして回るのだが、ほとんど芋洗い状態である。
 それでも成田にカットをお願いしたいと予約する者は絶えない。

 凪はいつもの光景に特に気にする様子はなく、カラーを何色にしようかとカラーチャートを目で追った。
 米山は仕事が速いし、アシスタントも気が利くため人気店であっても待ち時間が恐ろしくかかることなどなかった。
 成田を指名しなければ至って普通の美容院である。ただ、どの美容師を指名してもハズレはない。

「ねぇ、凪くん。先に言っとくんだけど俺本店に行くことになってさ」

 米山は口を開いた。ふと顔を上げた凪の目に飛び込んだのは米山の嬉しそうな顔だった。

「え? 本店ですか?」

「うん。ようやく。8年越しかな」

「うわっ、よかったっすね。ずっと行きたいって言ってたじゃないですか」

 凪も思わず顔が綻んだ。米山を指名し始めた頃から彼が本店で働きたいと言っていたのを聞いていたし、応援もしていたからだ。
 いくつか店舗はあったが中でも本店は倍率が高く、カリスマと呼ばれるいくつもの賞をとっている美容師でさえ簡単には移籍できなかった。

「成田さんが俺のこと押してくれてさ。向こうの店長に掛け合ってくれて行けることになったんだよ」

「えっ! じゃあ、成田さんに認められたってことですか?」

「そう思っていいのかな……。まあ、経験も年齢も俺の方が上だけど、専門職って技術と接客が全てみたいなところがあるから。成田さんのことはずっと尊敬してたから嬉しくてさ」

 そう言ってはにかむ米山は、今にも踊り出しそうなほど喜びを噛み締めていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

処理中です...