上 下
27 / 325
嫌いなアイツ

09

しおりを挟む
 凪が硬直している間に千紘はさっとそれを回収した。元のポケットへ戻ったスマートフォン。

「別に俺は悪用する気なんてないんだけどね。思い出の為に貰っただけだし。でも、もしかしたらうっかり誰かに見せちゃうかもねぇー」

 ゆったりとした口調で千紘は言う。凪は自分でも唇が震えているのがわかった。

「お、俺の事脅す気かよ……」

「脅さないよ。酷いことも痛いこともしないし、無理矢理するのも好きじゃないって言ったじゃん」

「てめっ……無理矢理しとして何言って」

「凪が可愛く俺を求めてくれたらそんなことしないし」

「ばっかやろ……そんなことするわけないだろ!」

「はい、大きな声出さない。ドライヤーかかってなかったら店内に響く声だよ」

 千紘はしれっとそんなことを言う。凪の正面に位置する席でドライヤーを使用していたため、かろうじて千紘にだけ聞き取れる声量だった。

 凪はぐぬぬっと奥歯を噛み締める。あんな写真をばら撒かれでもしたら、女性相手のセラピストにとっては致命傷である。
 男とも寝られる男として傷がつけば、あっという間に客は離れていくだろう。

「で、パーマとカットとカラーだっけ? とりあえずトリートメントしとこ。こんなに傷んでるのはないわ」

 さらりと話を戻した千紘はカラーチャートを手にとってうーんと考える。

「おい、美容院変えるって」

「とりあえず今日はやっていきなよ。トリートメントは俺がサービスしてあげる。この前イジメちゃったお詫び」

 綺麗に片目を瞑って指先を自分の唇に当てた。そんなキザな行為すら絵になる千紘にもはや殺意すら芽生える凪。

「てんめ……」

「俺も今仕事中だからね。仕事はちゃんとやらせてもらうよ。責任感強いの好きでしょ?」

「……それ言ったのはお前だろうが」

「ちゃんと覚えてんじゃん。さて、俺の凪の髪をこんなに傷ませたアイツは後でシメるとして、先にシャンプー行こう。色、俺が決めていい?」

 またしても不吉な言葉が放たれて、凪は震え上がった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

「幼女転生」

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:13

チューベローズ

BL / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:37

マゾ少年愛都🩵奴隷補習

BL / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:12

ハイスペックストーカーに追われています

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:379

徐々に洗脳されていく兄を見てきた3年間のドキュメンタリー

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:10

【本編完結】異世界まったり逃避行

BL / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:1,008

異世界で突然国王さまの伴侶に選ばれて溺愛されています

BL / 完結 24h.ポイント:326pt お気に入り:2,683

処理中です...