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脅しの存在

02

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 沈んだ気持ちで客と会ったからと言って手を抜くわけにもいかない。凪は淡々と仕事をこなし、笑顔を作って甘い言葉を囁いた。

「快くん、今日もありがとう。次はロングにしようかな……」

「え? ほんと!?」

「うん。最近帰ってから寂しくて……もっと一緒にいたいって思って」

「嬉しいー! ありがとうね! 俺もずっと一緒にいたいよ。そういうの素直に言ってくれるの可愛い」

 凪は笑顔でゆみを抱きしめた。
 時間はいつも120分と短めだが、週に2回のペースで予約してくれる客だった。ロングで取るということは、それだけ金がかかる。
 会う度に本番を、とはいかないが会う内の何回かは挿入した。

「へへ。私も快くん大好き。でも、今日私でイってほしかったなぁ」

 凪の腕に頭をあずけてゆみは言う。スタイルは悪くないが、顔は好みじゃなかった。顔を隠せば下半身は反応するが、やはり今日も挿入しても絶頂を迎えられなかった。

「そうだよね、ごめんね。でも、俺がイクよりも、ゆみちゃんが感じてる顔見てる方が好きなんだもん」

「えー! 私、挿れてる時すごい気持ちよかったけど」

「俺もよかったよ。今度のロングの時にいっぱい出させてもらおうかな」

 凪が額にキスを落として言うと、ゆみは嬉しそうに顔を綻ばせた。ロングにすれば長い間、凪と繋がっていられると想像しているのだ。
 そんな顔を見て凪は目を瞑ってじっと考え込む。

 あー……クソ。今日絶対アイツに会ったからだよ! 警戒してんだ、俺の体。この女だって目を瞑れば今まではイケたのに!
 そろそろいい加減客でイケるようにならないとまずい。仕事に影響出るし、いつまでも誤魔化せない。

 凪はセラピストとしての危機を感じていた。本番があるから凪を指名している客も多い。まだ勃起するだけマシだが、それだって相手によってはかなり集中力が必要だった。

 ゆみと別れた凪は、報告の連絡を事務所に入れた。次の客の予約を確認するためにホーム画面に戻れば数件の不在着信が表示されていた。

「電話……誰だ」

 凪は顔をしかめた。客に電話番号を教えることはないし、事務所の番号とも違う。迷惑電話を疑って検索してみるも引っかからない。
 こんなに何回もかけてくるってことは急用? まさか家族になんかあったとか? 連絡取れなくなった友達とか?

 凪はうーんと悩んだ末、その電話番号に折り返しの電話をかけた。怪しい電話ならすぐに切ればいい。大した用事じゃなければ忙しいと言って切り上げればいい。凪はそう思いながら呼出音を聞いていた。

「あ、もしもし」

 電話が繋がり、凪の方から声をかけた。向こう側は静かなもので、すぐに「凪? 俺だよ。千紘」と低い声が聞こえた。
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