ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

雪村こはる

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脅しの存在

03

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 さあっと血の気が引いた凪は、思わず電話を切った。反射的だった。ツイッターのアカウントはブロックしたし、新規の捨てアカウントも相手にしないようにしていた。
 どうしてもという客には店を通してもらい、かなり千紘を警戒していたのだ。

 電話番号など知るはずがない。それなのになぜ……そう思ってハッと顔をあげた。この2年間、美容院の予約はずっと電話で取っていた。
 当然店には凪の顧客情報があるはずだった。

 まさか……アイツ。

 わなわなと手を震わせる凪。その瞬間、スマートフォンも着信を知らせた。凪がかけ直した同じ番号。
 千紘だとわかっているのだから出なければいい。そう思うのに、頭に浮かぶのは例の写真。

「あー……クソッ!」

 凪は地団駄を踏んで通話に切り替えた。

「お前、電話番号!」

「凪、デートしよー」

「聞け! おい、コラ! テメェ店で俺の番号調べたろ!」

「食べ物何好き? ご飯行く?」

「行かねぇよ! 答えろよ!」

「もう、凪。声大きいよ。俺、耳痛くなっちゃう」

 とろんと甘い声で千紘は言った。ゆったりとした声は昼間聞いた時と同じだった。

「話聞かないからだろ!」

「今まで番号知っててもかけなかっただけ褒めてよ。わざわざ遠回りしてDMまで送ったのに」

「おい。なんでお前の方が呆れてんだよ。ふざけんな! 個人情報漏洩じゃねぇか!」

「じゃあ、DMでいいよ」

「ブロックしてんだよ!」

「新しい垢作るよー」

「作んな、クソ。気持ち悪ぃ!」

「はは。口悪いなぁ。……可愛いなぁ」

 うっとりとした千紘の声が耳介をなぞるように響き、凪は身震いをした。今のどこに可愛い要素があったのか全く理解できなかった。

「なんで電話なんか」

「今日普通に帰ってったから写真のこと忘れてるんじゃないかと思って」

 さらっと言った千紘に凪はガクンと項垂れた。わざわざ連絡してこなくてもこっちも思い出してショック受けてんだよ。そう心の中で嘆きながら凪は「……脅して何が目的?」と尋ねた。

「凪」

「無理。キモイって言ってるだろ」

「そんなに男に好かれるのキモイ?」

「それ以前にお前のやり方が汚くて嫌い。男が好きなのもキモイ、大嫌い」

「……んー……そうか」

 あんなにもあっけらかんとしていたのに、淡々と言った凪の言葉に、千紘は声のトーンを下げた。空気が変わった気がして、凪はピクリと瞼を上げた。

 千紘のことは許せないが、同性を好きなことをキモイと言ってしまった件に関してはマズかったかも……と息を飲んだ。
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