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脅しの存在
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凪は声を震わせて「やめろよ……。お、お前だって働きづらくなるだろ」と言った。
「ならないよ。俺、もうすぐ独立するから」
「は!?」
凪はあんぐりと口を開けた。今の美容院は成田千紘の名前で売上が伸びているようなものだ。
その千紘が独立をするなんて、毎月通っていた凪も米山から聞かされていないことだった。
「じゃなきゃ米山さんを本店に推薦したりなんかしないよ。普通俺が行くでしょ」
当然のことを言われ、凪は確かに……と納得してしまった。
「何度も異動の打診をされたよ。でも断った。店を辞めることも引き止められたけど、もう既にスタッフも集めて店を出す準備をしてる」
「美容院?」
「もちろん。俺、美容師だからね」
千紘は、何を当然のことをといったふうにクスクスと笑った。凪はさあっと血の気が引く。これであの美容院に凪との関係を晒したところで千紘には何の痛手でもないと悟ったのだ。
ただただ凪だけが不利な状況。付き合わなければ消されることはない画像。それどろか拡散される恐れがある現在。
「……晒してどうするつもりだよ」
「どうもしないよ。客の中には俺がゲイだって知ってる人は多い」
「そ、そうなの!?」
「別に隠してないもん」
「もんって……じゃあ、スタッフは……」
「ほとんど知ってる。でも、中には女の子もいけると思ってる人もいる。直接そこには触れてこないよ」
「……お前が怖いからだろ」
あのアシスタントだってめちゃくちゃ怖がってたじゃねぇか……。他のスタッフにとっちゃ美容師としての憧れでも、深入りしたらヤバいってわかってんだろうな……。
凪が険しい顔をすれば、千紘は愉快そうに「あながち間違ってない」と言ってまた笑った。
「だから凪は俺とデートするしかないんだよ」
「最低だな、お前」
「うん。デートしよう」
軽蔑を含んだ凪の口調などおかまいなしに、千紘は弾んだ声で言った。
「明るいな、お前!」
これには凪も呆れる他ない。今日のカットといい、今後のデートといい、凪にはもう選択肢は残っていない。
「……俺は忙しい。んで、お前も忙しい。デートなんかしてる暇は」
「俺が合わせるよ」
「どうやってだよ。お前、定休日以外予約満杯だろ」
「だねぇ」
「客をキャンセルさせるわけにもいかねぇだろうが」
「わぁ……凪、やっぱり優しいね。俺のお客さんの心配まで」
「してない」
「してたじゃん」
「してねぇよ! あー……もう、クソ……。俺だって休みなしで働いてんだよ」
「だから、その仕事分お金出すってば」
「裏引きはルール違反だから、俺はしない」
「そう……。じゃあ、タダで凪と会えるってことか。まるで……本当のデートだね!」
「嬉しそうに言ってんじゃねー! 脅されてんだよ、お前に!」
くわっと噛み付く凪と飄々とした態度の千紘。2人がデートする為に必要なのは、時間だけだった。
「ならないよ。俺、もうすぐ独立するから」
「は!?」
凪はあんぐりと口を開けた。今の美容院は成田千紘の名前で売上が伸びているようなものだ。
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「どうもしないよ。客の中には俺がゲイだって知ってる人は多い」
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「もんって……じゃあ、スタッフは……」
「ほとんど知ってる。でも、中には女の子もいけると思ってる人もいる。直接そこには触れてこないよ」
「……お前が怖いからだろ」
あのアシスタントだってめちゃくちゃ怖がってたじゃねぇか……。他のスタッフにとっちゃ美容師としての憧れでも、深入りしたらヤバいってわかってんだろうな……。
凪が険しい顔をすれば、千紘は愉快そうに「あながち間違ってない」と言ってまた笑った。
「だから凪は俺とデートするしかないんだよ」
「最低だな、お前」
「うん。デートしよう」
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「明るいな、お前!」
これには凪も呆れる他ない。今日のカットといい、今後のデートといい、凪にはもう選択肢は残っていない。
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「どうやってだよ。お前、定休日以外予約満杯だろ」
「だねぇ」
「客をキャンセルさせるわけにもいかねぇだろうが」
「わぁ……凪、やっぱり優しいね。俺のお客さんの心配まで」
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「してねぇよ! あー……もう、クソ……。俺だって休みなしで働いてんだよ」
「だから、その仕事分お金出すってば」
「裏引きはルール違反だから、俺はしない」
「そう……。じゃあ、タダで凪と会えるってことか。まるで……本当のデートだね!」
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