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脅しの存在

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 凪の嫌味など取るに足らない千紘は、その言葉にすっと瞼を上げ、瞳を揺らした。どんな形であれ、凪の特別になりたいと願っていた。
 ある意味でもどんな意味でも特別であったらそれでいい。今、凪の中に自分がいる。そう思っただけで、千紘はとてつもなく歓喜した。

「嬉しい……」

「おい、なんでだよ」

 ガクンと項垂れる凪。嫌味も否定も全く効果がない。凪はどんな言葉を選んだら少しくらい響くんだろうかと考えたが、それ自体千紘の思惑にハマりそうでやめた。

「ねぇ凪さ、仕事順調じゃん?」

「は? まあ、だから何。さっきから」

「客とえっちするの?」

「……は?」

 酒も入ってないのに最初からこんな話。男同士、好きな女のタイプで盛り上がった流れならこの手の話も上機嫌で話すが、相手は自分を犯した男。そして、男が好きな男。
 仕事内容をネタにするには少々相手が悪い、と凪は嫌そうに顔をしかめた。

「ほら、裸で触れ合うわけでしょ? んで、凪は女の子しか無理って言ってたじゃん。ていうことは、仕事中だったとしても勃つわけ?」

「……勃つこともある。慣れすぎて勃たねぇ時もあるけど」

「プライベートではえっちしてる?」

「お前には関係ねぇだろ! なんなんだよ、だから」

「関係あるよ。凪、もしかしてもうイケないんじゃないかと思って」

 千紘は、眉を下げて子犬のような顔で凪を見つめた。まるで少しだけ罪悪感を持っているかの雰囲気だった。

「……は?」

 凪は、またしても気の抜けた声を上げた。このことに関しては散々悩んでいたのだ。どんなに好みの女性とセックスしようとも、射精感がやってこない。当然、射精することもできない。
 機能的にダメになってしまったのか、気持ちの問題なのかわからないが、以前に比べて気持ちいいとも思えなくなった。

「付き合った人によく言われるんだよね。俺とセックスしてから他の人じゃイケなくなったって」

 千紘はさっと目を逸らして言った。あの時は本能のまま凪を抱いたが、もしかしたら凪の体に変化が起こっているのではないかと後になって思ったのだった。
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