ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

雪村こはる

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脅しの存在

09

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 料理が運ばれてくる間、凪は急に気まずくなる。美容院では周りに人がいたし、今の今までメニューを決めるという作業があったから。
 特にする事がなくなった今、どんな会話をしたらいいのかわからなかった。

 世間話をするのも違う気がした。友達のようになんでも話せる仲でもないし、プライベートなことを話すのは絶対に嫌。
 千紘をなるべく刺激しないよう、どうにか写真を消してもらう方向にもっていかなければならない。

 そんな難易度の高いミッションをさっくりこなせるほど、経験値はない。いや、どんな人間だって初対面の相手に犯された挙句、写真で脅されている現状なんてそうはない。
 経験値で片付けられる問題ではなかった。

「凪はいつも忙しそうだね」

 そんな凪をよそに、千紘の方から話しかけてきた。凪は、グラスの水を一口飲んで「忙しいよ。ずっと。お前もだろ」と言った。

「うん。休憩中とか、家にいる時とかホームページで予約見てる」

「……気持ち悪」

 凪はぞぞっと背筋に悪寒が走るのを感じた。執着されていることには気付いていたが、まさか自分の仕事スケジュールまで把握されているとは思ってもみなかった。

「何分入ったんだって見る度に今、違う女の子といるのかあってショック受ける」

 両手で頬杖をついてむくれる千紘に、凪は盛大なため息をついた。ガチ恋している凪の客となんら変わらない反応だからだ。
 ホームページに掲載されるスケジュールを見て落ち込む客は多い。しかし反対に嫉妬心を煽り、予約を入れさせることもできる。

 凪に相当入れ込んでいる客の1人は、つい先日も凪が別の客に貸し切られて泣いていた。金を払わなければ会えない。その関係はもどかしく辛いもの。割り切って遊べる人間ばかりではないのだ。

「あのな……仕事だし」

「お客さん好きになった事ないの?」

「ない」

「どんなに可愛くても?」

「客としての好きはあるよ。可愛いもある。でも本気で好きになったことはない。金が発生してる時点で営業」

「じゃあ、俺は特別」

 千紘は、きらっと目を輝かせた。少し前のめりになって凪の目を見つめる。どこがだよ、と気だるそうに息を吐く凪は「お前のは脅し。ある意味特別かもな」と嫌味を言った。
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