ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

雪村こはる

文字の大きさ
64 / 324
脅しの存在

17

しおりを挟む
 千紘はどこか驕っている部分もあった。もちろん人気があるのは、自分が誰よりも努力したからだと言い切れる。寝る間を惜しんで勉強もしたし、練習もした。どうしたら顧客がつくかと営業も学んだ。
 それらの努力が他人よりも上だった。それだけのこと。ただ、忙しくなるにつれて時に客のありがたさを忘れることもあった。
 何で自分ばかりこんなに忙しいのか、なぜ休みが取れないのか、プライベートもない。どんどん心は狭くなって、他人に八つ当たりする。
 そんなことの繰り返しだった。特にここ数ヶ月は酷かったと自覚もある。

 しかし、おそらく凪は違う。千紘はそう思った。営業時間は11時から夜中の1時までだし、お泊まりを含めれば朝9時までだ。
 貸切りなんてすれば何日もずっと同じ客と過ごす。24時間なんてもんじゃない。それこそプライベートなんてありはしない。ホームページを見たっていつも出勤していて休んでいる形跡はない。

 それなのに見ず知らずの男に対してこんな言葉が出るのは、千紘や店のためだけではなく、自らが予約と客というものに対して真摯に向き合っている証拠だと思った。
 プロフェッショナルとは、千紘はそれを考えて仕事をこなし、インタビューを受けた時も偉そうなことを言った。けれど、結局自分は初歩的なことをおざなりにしていたんじゃないか。そんなふうに考えることができた。

 なんだ……。カッコイイじゃん、大橋凪。

 千紘は彼らの死角でふふっと嬉しそうに笑った。

 これも俺の驕りが招いた結果かね……。仕事もプライベートも精算しなきゃいけないものが多そうだ。
 それにしたってきみがムキになることじゃないのに。

 千紘はその場にしゃがんで、膝の上で頬杖をつくと、首を傾げて真剣な目をしている凪を見つめた。

「お前、気持ち悪いな。何熱くなってんだよ」

 男は微塵も反省などしていないようで、むしろ説教する凪を疎ましそうにあしらった。

「どうせ真面目に仕事したことなんかないんだろうな」

「は……?」

 今度は凪の方が嘲笑うかのように口角を上げた。まるで王者の余裕だった。そんな態度に男の方が動揺する。

「お前、羨ましいんだろ。活躍してる人間が。どうせ大方、成田さんの予約が思うように取れなくて嫌がらせでもしたんだろうけど。そういうのだせぇわ」

「なっ」

「頂点に立つ人間ってのは、それなりに努力してんだよ。余裕そうに振舞っても、凡人にはわからない程の努力をしてる。俺なら自分の担当がそんなに活躍してたら誇らしいけどな」

「誇らしい……? 1人1人の客の顔だって覚えてないほど忙しくして?」

「だったら覚えてもらえるまで通えばいいだろ? 数回会っただけで信頼や特別な感情を得られるなんて思うな。それはあまりにも図々しい」

 話の方向性がズレているような気もしたが、千紘には重たく心に響く言葉だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

処理中です...