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体だけでも

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 千紘は瞬きするのも惜しいほど、じーっと凪の寝顔を見つめていた。初めて2人切りで過ごした時も、凪が限界を感じて眠りに落ちたのをこうやっていつまでも見ていたのだ。

 あの時のことを思い出していた。綺麗な寝顔はずっと見ていても全く飽きない。それどころか時々微かに揺れる睫毛や、もぐもぐと動く唇、呼吸の音に漏れるぐぐもった声。
 どれも眠っている無防備な時にしかしない仕草で、全てが貴重に感じた。

 触らないと約束したからその髪を撫でることもできないが、欲を言えば自分の腕の中で眠って欲しかった。

 いやらしいことしないから腕枕させてって言ったらさせてくれるかな……。そんな交渉内容を考える。何ならOKがでるか、どんな言い方をしたら受け入れてくれるか思考を巡らす。
 そんなことを考えている時間でさえ、凪が同じ空間にいたら幸せだった。

 なんだかんだいいながら一緒にいてくれた。警戒心を見せながら自分の隣で寝てくれた。ほんの少しずつ近付く距離感が心地良い。
 多分次も会ってくれるんじゃないかと期待した。

 すー、すーと寝息まで立て始めた凪。余程疲れていたのか、千紘との行為で疲れたのか。どちらにせよ熟睡してしまうほど眠かったようだと千紘は思いながら体を起こす。
 時間が来たら起こしてあげなきゃとスマートフォンを取りにソファーへと向かう。

 アラームをセットした千紘は、数メートル離れた先から眠る凪の姿を見る。時間が来たらお客さんのところに行くのか。今まで幸せだった気持ちが一気に曇る。

 別になんともないって思ってたんだけどな……。予約が入ると気が重くなるし、女の子と会ってると思うとモヤモヤする。そういう仕事だって理解しなくちゃいけないのに……。
 時間を買わなくてもプライベートを過ごせたことに感謝しなければいけない立場だとわかっていても、そう思わずにはいられなかった。

 せめてあともう少しだけこの時間を堪能したいと、千紘はもう一度凪の隣に寝転び、その寝顔に目を向けた。
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