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体だけでも

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「まだお金が必要なの?」

 千紘は本番行為をしてまでNo.1で居続ける凪の心情までは理解できなかった。辞める気はなさそうだし、金に困ってると思うのが妥当だった。

「ん? 別に困ってないよ。そこそこ貯金もできたし、多分知り合いと比較しても俺は稼いでる方だと思う。さっき言った通り、もう借金もないし」

「じゃあ、なんでまだ固執するの?」

「金に執着してるのは、子供の頃みたいな貧乏生活には戻りたくないから。生活水準を上げたら、そう簡単に下げられない」

「そりゃそうだけど……」

「続けるのは、今の俺にはそれしかないから。兄貴は結局大学行って資格取って働いてるけど、俺は高卒で適当に工場とかで働いてて。セラピストは今しかできない仕事だし、技術があれば客がつく。結果が出ると、認めてもらった気分になる」

 まだ天井を見つめたままの凪。千紘は、そんな凪の横顔を見ながら、なんとなく流れてくる哀愁に気付いた。

 ……そういうことか。金、金言ってても結局は必要とされることに飢えてるわけか。母親は自分達を捨てて他の家庭に入り浸っていたようなもんだし、多分いらない存在だって思ったこともあったんだろうな……。
 相手が女の子なら、母性を感じることができるし、求められれば自分の価値を感じることができる。本番を断って客が離れていくのを怖いと感じるのは、不要だと言われた気分になるから。そんなところかな……。

 千紘はそんなふうに凪の心情を分析した。同性愛者である千紘は、凪と境遇は違えど少し理解できるところがあった。
 自分はとても少数派の人間で、男の体に生まれてきたからには女性に恋愛感情を抱くのが普通だとされていた時代に生まれた。今ほどLGBTQが認識されていたわけじゃない。
 子供の頃は、それを隠すのに必死だった。好きな男の子がいたが、悟られたら嫌われる気がして怖くて言えなかった。

 自分の気持ちを真っ直ぐ言えるようになったのは、初めて彼氏ができてからだ。受け入れてくれる人がいると思えて初めて自分の気持ちをさらけ出すことができた。
 きっと凪も、これ以上誰かに嫌われたり疎まれたりしたくないんだろうと思えた。
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