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気持ちは変わるもの

03

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「お前、ほんと最近調子乗りすぎだぞ」

 凪はまだ顔を赤らめたまま呟いた。もう会わないと拒絶した日、あんなにも悲しそうな顔をしたくせに。嫌いだと手を振り払った時、あんなにも切なそうな顔をしたくせに。
 二度、三度、四度プライベートで会ったくらいで、抱かせたくらいでもう近しい間柄みたいな顔をする。凪はそんなふうに思って面白くない。

「調子、乗るでしょ。大好きな人に仕事中に会えるなんて、浮き足立ってヤバい」

 千紘はそう言って無邪気に笑った。時々こうやって子供みたいに素直だから、悪態をつく自分の方が大人気ないんじゃないかと錯覚しそうになる。否、実際大人気ないところもあるか……と凪はふと思うこともあった。

「お前、本当に俺のこと好きなのな」

「うん。好き」

 好きだと言われて照れるのとは違うけれど、好意を抱かれて悪い気はしない。時々強引なところはあるが、初対面の時のように凪に恐怖を与えることは決してしなくなった千紘。
 少しずつ信頼を得ようと彼なりに努力していることは窺えた。だからといって全てを受け入れるつもりはないが、凪もなんとなく千紘と会話をすることも、彼のために時間を作ることも苦ではなくなってきている。

「お前って変わってるよな?」

「そう? むしろ凪を好きになるなら王道じゃない? イケメン、細マッチョ、高身長」

「……お前に言われるとほんとに嫌になる」

 これだけの褒め言葉を並べられて全く喜べないのは、美形で肉体美を持ち、凪を超える高身長の千紘に言われたからだ。
 いくら持ち上げてもらっても、自分を凌駕する相手に言われたらそれはもはや褒められてはいない。

「えー? それって俺のこと褒めてる?」

「褒めてる、褒めてる。お前の顔は綺麗だし、完璧な体型だし、俺よりも背が高い」

「おお、凪が珍しく俺を褒めた」

「お前の容姿は完璧だよ。よって、俺のタイプじゃない」

 ツンとそっぽ向いて凪は言う。ほんの悪あがきだ。一瞬喜んでポッと頬を赤く染めた千紘は、たちまちむーっと眉を下げてむくれた。
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