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気持ちは変わるもの

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 ゆっくり頭を撫でる手から体温が伝わる。優しい感覚は、強引に凪を押し倒した人物と同じだとは思えなかった。

「髪綺麗になったね」

「おかげさまで」

「やっぱり米山さんダメだな」

「本店に追いやったくせに」

「まあ、ダメなら戻ってくるでしょ」

 他人事のように言う千紘。凪に近付けさせないよう本店に異動させたことなどもうすっかり忘れている口振りだ。
 何度か頭を撫でて満足したのか、千紘はまた体を起こすとダンボールの蓋を閉じてガムテープで止めた。それをいくつも繰り返すと、それらを部屋の隅へと積み上げた。

「あ、それで凪はどれか持ってく?」

「んー……テープだけ。買いに行くのめんどくさいから」

「はーい。じゃあ、他のはまとめちゃうね」

「うん」

 凪は、何の会話をしてんだと思いながらも返事をした。今朝までそこに寝ていたはずなのに、なぜ家を出る前にそれを広げたのか。
 おそらく、あげる相手の中に自分の客がいたのだ。今日来る予定だったから、朝広げてあげる分だけまとめて職場に持っていった。

 そう推理した凪は「客にあげたの?」と尋ねた。

「お客さんじゃないよ。そのパターンもあるけど。今日はね、友達がカットしにきた」

「そっちのパターンか。友達の髪切るってどんな気分?」

「んー? 普通だよ。客の髪やるのと変わんない。でもまあ、気持ち的には友達の方が楽だよ」

「プライベートで切ってやらないんだ?」

「それはしないよ。俺の技術は商品だから。友達でも俺が仕事なら、同じように予約させる」

 千紘は最後のダンボールを片付けた。シーツの上には、凪のために置き去りにされたボンデージテープだけ。

「じゃあ、俺がプライベートで切ってって言ったら?」

 凪はなぜかそんな質問をした。千紘が仕事に対して意外と真面目なことは承知している。凪に対しても、次の予約をどうするかといつも尋ねるのだ。
 あれだけプライベートで会いたがった千紘も、髪に関してだけはプライベートでもいいと言ったことはなかった。
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