ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

雪村こはる

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気持ちは変わるもの

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「お前、千紘のこと好きなわけじゃないの?」

 自分とは違い、あからさまに面倒くさそうな顔をする凪に、男は期待を込めた目で見つめた。

「好きじゃねぇし、付き合ってねぇ」

 凪の言葉に男はぱあっと目を輝かせた。てっきり付き合っているものだと思っていた男を安心させるにはもってこいの言葉だった。

 数少ない街灯が凪と男を照らす。お互いの顔がわかる位置まで距離が近付くと男は「それなら千紘から手を引いてよ」と口角を上げたまま言った。
 目を見開き、口元が緩んだ顔は狂気に満ちていた。

 うわ……。なんか、コイツやべぇ……。

 凪は本能的にそう思った。千紘に執着していること、凪を尾行してきた時点で行き過ぎだとは思っていたが、表情を見ると冷静さを欠いているようだった。

「手を引くもなにも……」

 なんならアイツに脅されてんのは俺の方なんだけど……とも言えない凪は必死で言葉を探した。

「何で千紘のことを好きでもないお前が家に上げてもらって、俺は放ったらかしなんだよ」

「いや……放ったらかしもなにももう別れてんだろ?」

「俺は納得してない! こんなに好きなのに! 好きじゃないなら千紘に近寄るなよ……」

 ジリジリと距離を詰められると、途端に凪は恐怖に襲われる。自分よりも小柄だし、おそらく力も弱い。しかし、目に見えるような殺気は何をしてくるかわからず、正体不明の不気味さが溢れていた。

「近寄ってるわけじゃねぇし。アイツが……」

「なにそれ。自分は千紘に好かれてるって自慢か?」

 目を大きく見開いた男が、鋭い視線を凪にぶつけた。
 ヤバい、言葉ミスった……。凪がそう思うも遅く、男は無心で凪に襲いかかった。

 髪を掴む勢いで右手を振りかざした。凪は何とか身を翻してそれをかわす。身体能力が高いのが取り柄だった。何のスポーツもしていなくても身軽でよかったと思う他ない。
 けれど男は全く諦める気配はなく、タックルしようとしているのか、猛スピードで凪に突進してきた。

 さすがにヤバすぎるだろ。そう顔を引きつらせた瞬間、男の体はぐんっとその場で静止した。かと思ったらそのまま勢いよく後ろに引かれ、ズシャッと音を立てて尻もちをついた。

「……なにしてんの」

 呆れたような、憤りを孕んだような低い声。それはさっきまで聞いていたもので、声の主はミルクティー色の髪を美しく揺らした。
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