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気持ちは変わるもの

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 最悪、後ろから殴られることも覚悟した。1人で歩いている所に声をかけるなんて、強盗か頭のおかしい殺人鬼くらいのものだと身構える。

 刃物でも持っていたら厄介だと思いながら声の主に目を向けた。予想していた人物像とは違い、凪は軽く瞼を下ろす。細目で相手を見れば「お前、千紘と抱き合ってたろ」と言われた。

 千紘という名前が飛び出して、すぐに彼の知り合いなのだと納得する。けれど、敵意を放つ相手からは不穏な空気を察した。

 身長は凪よりも少し低いくらいで痩せ型だった。丸い瞳が特徴的で、マッシュの髪型が余計に中性的に見せた。といっても、千紘の艶やかな女性的とは違って、子犬のように可愛らしい顔立ちをしている。
 ただその容姿を見ただけで、凪はおそらく千紘の元彼なんだろうというくらいは想像がついた。

「お前、誰? アイツの元彼?」

「っ……」

 図星だったのか、男はかあっと顔を赤くさせて、鋭い眼光を放った。しかし、すぐに凪と距離を詰め、「千紘と付き合ってんのかよ!」と声を荒らげた。

 凪は面倒くさそうに息をつく。

 最悪……。何でこんなとこで捕まるかな。つーか、俺が出てくるところ見てるとかアイツのマンションの前で待ち伏せしてたってことだろ。
 とっくに別れてんのに? こわ……。

 凪はそう思いながら、腕に鳥肌が立つのを感じた。凪もその昔、付き合っていた彼女を振ってからストーカー行為に悩まされたことがあったのだ。
 千紘くらい人気があれば執着されるのも頷けるが、まさか自分がそこに巻き込まれるとは思ってもみなかった。

「付き合ってねぇよ……」

「じゃあ、ただの友達……?」

 男は疑うような目で凪を見る。まさに子犬のように瞳を潤ませて、体の関係がないことを期待しているかのようだった。

「そんなのお前に関係ないだろ。別れてんならあんまり執着すんなよ」

「お前こそ、関係ないだろ!」

「そう思うならアイツに直接聞けよ。めんどくせぇ」

 凪はつい本音がこぼれて、右掌で自分の首の後ろを撫でた。なんでアイツの元彼に俺が絡まれなきゃなんねぇんだ、という気持ちが先立った。
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