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気持ちは変わるもの

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 付き合っていた頃には会う度に笑いかけてくれて、好きだと言って抱きしめてくれて、帰らないでと引き止めてくれた。それがいつしか自分ばかりが好きなような気がして、段々と千紘から笑顔が消えて別れる時にはうんざりしたような表情を浮かべていた。

 付き合っている時はあんなにも楽しかった。寄りを戻せればあの頃に戻れる気がした。しかし、千紘の笑顔は樹月以外の男に向けられていて自分との差を感じた。

 凪さえいなければまだチャンスはあったかもしれない。そう思ったのに、凪に指摘されたらいつまでたっても千紘を諦められない自分と同じように千紘もこの男を諦めないのかもしれない。そんなふうに、じわじわと感じる。
 もしそうなったらずっと思いは一方通行で、他の男を愛しそうに見つめる愛しい人を追いかけ続けなければならない。それを見ているのも辛い気がした。

「千紘……どうしても俺じゃダメなの?」

 樹月は縋るように千紘の腕に触れた。せめてもう一度抱きしめて欲しかった。髪を撫でて優しく微笑んでくれたら満たされるのに。それを求めて千紘想い続けた。
 しかしその後に向けられる視線は、求めているものとは程遠い。

「何度も言ってるけどダメだよ。今回この人に手を出そうとしたことで完全に許せない存在になった」

 何度尋ねても結果は同じだった。質問すればするだけ傷が抉られていく。凪の顔を見ればまるで他人事のような顔をしていて憤りを感じる。

「千紘のこと好きでもないくせに思わせぶりなことするなよ……」

 千紘にこれだけ言われたら、凪を攻撃するのは逆効果だとわかっている。それでも言わずにはいられなかった。
 こんなに好きでも叶わない恋もあるのに、相手の好意を知っていて「好きでもないし付き合ってもいない」と平然と言う凪が恨めしかった。
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