ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

雪村こはる

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気持ちは変わるもの

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 暫くすると千紘は顔を上げ「めっっっちゃ満たされた」と満面の笑みを向けた。
 凪は肩をすくめ、眉をひそめる。

「よかったな、回復して」

「回復って、最初から弱ってないし」

「はいはい」

「ねぇ、凪。ホントだよ」

「わかったよ」

 必死な千紘に、凪はふっと笑みをこぼす。その柔らかな笑顔は千紘を安心させるのに十分過ぎる程だった。

「好きだなぁ……」

「わかったって」

「本気なんだけどなぁ」

「うん、伝わった」

 いつもの調子で言う千紘に、凪は軽く目を閉じて言う。あんなにも真剣になぜ好きかを熱弁されたら、さすがの凪だって理解しないわけがない。

「え? じゃあ、付き合ってくれるってこと?」

「言ってない」

 凪は面倒くさそうに大きく息を吐いて、また歩みを進めた。邪魔者がいなくなった今、帰宅しない理由がなかった。
 しかし、その後をとことことついてくる千紘。

「やっぱ送ってくー」

 大きな一歩を踏み出して千紘は凪の隣に並んだ。凪は少しだけ考えてから「好きにすれば」と答えた。
 凪を家まで送り届けることが千紘にとっての安心に繋がるのなら、好きにさせてやればいいと思った。

「……凪はさ、本気で好きな子いた?」

 千紘は真っ直ぐ前を向きながら尋ねる。凪もチラリと視線を向けたが、千紘の表情はわからなかった。

「いたと思うよ。ただ、アイツみたいにあんなにのめり込んだことはない」

「はは。俺もあそこまで惚れられたのは初めてかな。凪は多そう」

「多そう? ああいうメンヘラっぽいの?」

「一応そのメンヘラ、俺の元彼なんだけどね」

「わかってるよ。死ぬって言って自殺未遂した子とかはいたよ」

「凪の魅力は中毒になるからね」

「なんだそれ」

 凪は呆れたように顔を眉間に皺を寄せた。千紘の好意は別として、今の客の中にも千紘以上に自分のことが好きな人間がいたかと考える。
 セラピストを辞めてもう会えないと言った時、樹月と同じように泣いて縋ってくる女性はいるだろうか。そう考えた時に何人か思い当たる人物がいた。

「凪はそれだけ魅力的ってことだよ」

「ふーん……。あんだけ依存されてるお前も相当なんじゃねぇの?」

「え? 凪、俺のこと魅力的って思ってるってこと?」

「言ってない。少なくとも他の男にとってはって意味」

「えー。でもまあ、人の気持ちなんて変わるからね。好きになることもあれば嫌いになることもある。だから、好きな気持ちがお互いに向いてることってそれだけで凄いことだよね」

「大人になると余計にな。目が肥えて他人を簡単に信用しなくなる」

「ねー。騙されてもいいやって思えるくらいのやつじゃないと中々本気出せないよ。まあ、それが凪だけど」

「はいはい」

「まだ諦めつかない?」

「なんの?」

「俺のモノになるっていう」

「今のところ予定はないな」

 さらりと返した凪。絶対ないから今のところないに変わった。それに気付いた千紘は、また1つ距離が縮んだ気がして嬉しそうに顔を綻ばせた。
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