ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

雪村こはる

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諦めること

06

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 凪はこれがプライベートなら言いたいこともはっきりと言えるのに……とうんざりする。仕事であるからには、それなりの接客をしなければならない。
 そうわかっていてももうこういう類の客は面倒なだけだと思った。昔ほどガツガツ稼がなくてもいい。そろそろ休みを取ろうとも思ってたんだ。
 貸切りをしてくれるような金のある客だが、今は金よりも安定した時間が欲しかった。

 優先順位を考える時がきたみたいだな……。

 凪はそう思いながら「今すぐ付き合いとか、セラピスト辞めてって言うなら、俺はやめておいた方がいいと思うよ」と言った。

「え?」

 今まで何度となく宥めてくれたいつもの凪とは違う言葉に、女は体を硬直させた。

「俺はそれには応えられない。辞めたら付き合えるかもねって言ったけど、約束はできないよ。好きだけど、今辞めることもできない」

「なんで!? だって私のこと好きならさっ」

「俺、今月収100万以上あるけど、辞めたらゆきちゃん毎月それ俺に払える?」

「え?」

「だって俺、これで生活してるんだよ? 辞めたら収入減るし、昼職に戻ったら今と同じだけ稼げなくなる。俺にセラピスト辞めてって言うってことは、俺の生活保障してくれるってことだよね?」

「それはっ……」

 女は顔を引きつらせて凪の目を見つめた。彼女になったらお金だけの関係じゃなくなる。今だって毎月100万近く使っているのだ。それが彼女になったら、今までの彼氏みたいに自分のためにお金を使ってくれたり、プレゼントしてくれたり、もちろん時間を全て捧げてくれるものだと思っていた。
 それなのに、彼女になっても尚お金を使わなきゃいけないなんて納得ができなかった。

「何年くらい続けられそう?」

「えっと……」

「俺、お客さん全員切っちゃったらゆきちゃんが別れたいってもし言った時、今の位置に戻れない可能性の方が高いんだけどさ、何年間くらい保障してくれる?」

「私、彼女になるんだよね……?」

「うん。付き合うならね。でも俺、セラピストだから。その辺の男と付き合うのとはわけが違うよ」

「うん……」

「できる? 毎月。仕事じゃないから、こんなふうに24時間一緒にいられる時ばっかりじゃないし、昼間の仕事始めたら忙しくて会えなくなるかもしれないけど」

 女はさあっと青い顔をした。今は金を払って会っているから、自分の都合のいい時間で会えるが、彼氏になったら断られることもある。仕事で疲れてるから今日は会えないと言われる可能性もある。それでも毎月100万以上は支払わなければならない。

「それは……彼女なの?」

「違うの? 俺が思ってる彼女とゆきちゃんが思ってる彼女の理想像が合わないなら、やっぱり付き合うのは無理そうだね。俺はやめといた方がいいかもね」

 穏やかだが、どこか冷たさを凪に感じた女は、いつの間にか泣くのもやめてぎゅっと唇を噛んだ。
 対して凪は、このコースが終わったらこの女を出禁にして切ろうと決めた。
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