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諦めること

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 久しぶりにしたキスは歯磨き粉の味がした。湿った舌の感覚が懐かしく感じた。
 最近は凪が何もするな、触れるなと言ったから触れるだけのキスだっておあずけ状態だったのだ。

 セックスがいいならキスもいいはず。勝手にそう思った千紘は、一度キスをしたらもう止まらなかった。
 本当はずっと触れたくて触れたくてたまらなかったのだ。それを凪に嫌われたくないからと必死に我慢をした。
 凪の体の負担になりたくないからと、なるべく休息がとれるように努力した。

 けれど、それもようやく解放されたのだ。何度触れさせてくれないかと頼もうか悩んだことか。もしかしたらキスくらいならいいと言ってくれるかもしれない。
 抱きしめるだけでも、腕枕だけでも嬉しかったが、キスができたら尚嬉しい。でもきっとキスをしたら止まらなくなる。それくらいは自分でもわかっていた。

 わかっているつもりだったが、こんなにも胸の奥が熱くなり、全身で凪を求めるとは千紘自身も思っていなかった。
 このところ、感情のコントロールが上手くできるようになってきていたのだ。凪をこの上なく好きなのは変わらないが、凪が嫌がる程の過度な愛情表現をせずとも心の中に留めておくことができていた。
 だから、例え凪の体調が戻って以前と同じように元気になって、何かの気まぐれで凪から誘ってくれることがあったとしても、腕枕だけで我慢できたようにもっと冷静に対応できると思っていた。

 しかし、何も考えられなくなるくらい凪でいっぱいになって、好きだという感情が溢れて止まらなくなった。

「凪……凪、好き」

 キスをしながら、合間で凪へ気持ちを伝えた。凪も千紘からの好きという言葉を久しぶりに聞いた気がした。
 何度も角度を変えて舌を絡める千紘。余裕などなく、既に膨れ上がった下半身も、凪の太腿が感知していた。

 ウザったいくらいの愛情をぶつけられたのは久しぶりで、凪もなんとなくこれが懐かしく感じた。
 自分が知ってる千紘はこうだった。しつこくて強引で、自制心がない。なのに時々優しくて、凪の気持ちを不安そうに確かめようとする。
 体調を気遣うような言葉をかけたり、優しく触れたり。そこから凪への千紘の愛がたくさん伝わるようだった。
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