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得るものと失うもの

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「今日もこの後予定入れてんの?」

 今日は凪から先に聞いた。予定が入っていたら帰るし、入っていなかったら……。

「ううん。今日は何も予定ないって言ったじゃん」

「あ……」

 千紘が電話越しに必死に訴えていたことを思い出す。恐らくキャンセルしたのであろう予定。

「凪と会った後は余韻に浸りたいと思って。誰かに会ったらもったいないじゃん」

「なんだそれ……」

 何だかよくわからないことを言う千紘に呆れながらも、凪は一息つくと「じゃあ、一緒に昼寝でもする?」と尋ねた。

 千紘は皿を流水にあてながら、ピタリと手を止めた。今まで通り会話ができただけでも嬉しいのに、聞き間違えかと思える内容が聞こえたのだ。
 さすがの千紘も一緒に昼寝ができるだなんて期待はしていなかった。連絡をもらえただけラッキーで、会えたら奇跡だと思っていたのだ。
 徐々にまた関係を構築し直していければ……そんなふうに謙虚な姿勢でいた。

 それなのに、凪から昼寝の誘いをもらうことになり、思わず言葉を失った。

「……おい。なんとか言えよ」

 流水の音だけが響くリビングで、凪が顔をしかめた。てっきり千紘がはしゃくようにして喜ぶものだと思っていたため、凪も拍子抜けだった。
 急に誘った自分が恥ずかしくなって、言わなきゃよかった……なんて後悔する。

「す、する! 昼寝する!」

 そんな後悔を途中で断裂させるほど大きな声で千紘が言った。すぐにでも返事をしなければ凪の気が変わってしまうかもしれないと焦った。
 その様子に凪も仕方がない……と「やっぱりいいや」という言葉を飲み込んだ。

 凪としてもいい加減体が辛かった。療養するために休職したはずが、思ったように休めなかったからだ。けれどまた千紘と一緒に眠ったら、この2週間の気怠さから解放されるかもしれないと少し光が見えた気がした。
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