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得るものと失うもの

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 作業をスピードアップさせた千紘はさっさと食器を洗って、乾燥だけ食洗機にかけた。手を拭きながら凪のもとに戻るが、段々と緊張してきた。
 凪とは何度か一緒に眠ったのに、まるで初めて共にベッドで過ごすかのような気分だった。

 セックスをするわけじゃない。単純に一緒に昼寝をするだけだ。同じベッドで隣同士で目を閉じ寝るだけ。そうだとわかっているのに、向かい合って座ったテーブルよりももっと近い距離で凪を感じられると思ったら、胸が高鳴った。

「寝室行く?」

 緊張は伝わってるかもしれないと思いつつ、千紘は凪に声をかけた。対して凪は眠そうに瞼が下がってきていた。
 凪は千紘と眠った時によく眠れたと言っていたが、今日の千紘は凪が側にいた方が眠れない気がした。

 眠ってしまうのがもったいなくて、いつまでも凪の寝顔を見ていたいと思った。

 無言で頷く凪は千紘の後をついて行き、一緒に寝室へ入った。前回もこうしてここへ招き入れたのに、シーツの色を変えたのもあって、全く別空間のように感じた。

「なんか、急に眠くなってきた……」

 凪はどんどん押し寄せる眠気に抗えそうになかった。自宅にいたらここまで眠くなることもない。眠いと思って目を閉じても数分経ったら眠気が吹っ飛んで、そこから一向に眠れなくなったりする。

 けれど、今日の眠気はいつもと感覚が違った。おそらく千紘が使っているディフューザーの香りのせいでもあるのだと気付いた。
 普段自分が好んでいる香りと違うのに、妙に落ち着く匂いだった。

 俺も寝室、この匂いにしようかな……なんて思いながら、凪は千紘に促されるままベッドに入った。スプリングの硬さも掛け布団の厚みも柔らかさも全て自分のベッドとは違う。
 それなのに、逆にそれが凪を安心させた。自宅が1番安らげる場所だと思っていたが、実は1番いたくない場所でもあったのかもしれない。

「もう、無理。寝る」

 千紘が緊張で体を強ばらせる中、凪は一足先に意識を手放した。
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