ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

雪村こはる

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得るものと失うもの

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 凪は暗闇の中、千紘の方に体を向けた。腕枕をしていない千紘は、子供のように丸まって凪の方を向いて眠っていた。

 仰向けの寝顔を見ることの方が多かったから、こうして顔が髪で隠れていることもあまりなかった。
 凪は軽く指先でその髪を払った。美しい顔が露になって、長い睫毛に視線がいく。

 揺すっても起きない千紘は、こんなふうに髪を触られたくらいじゃ目を覚ますことはないと凪もわかっている。
 鼻筋も通っているし、唇も潤っている。ただやっぱり艶やかな肌とは程遠い。

 同じような横向きで向き合ったまま、凪は千紘の頬に触れた。以前ならモチモチと手に吸い付いてきた肌が、ざらっと凪の手を刺激した。

 触り心地よかったのに……。

 そう思いながら軽く撫でる。きっとたっぷり睡眠をとって、栄養のある食事を摂ったら元に戻るだろう。

 眠れなかったことも、連絡してこなかったことも、適当に食事を済ませたことも、千紘は深くは言わなかった。
 そんなマイナスなことよりも、ただ凪から連絡が来て、会いに来てくれて、時間を共有できることを喜んだ。

 あー……そういうことか。
 全部前向きだからだ。

 凪は不意にストンと何か腑に落ちてしまった。なぜ千紘を突き放せないのか、また会いにきたのか、安心感すら覚えるのか。

 それは、千紘が全てに対してポジティブだったからだ。思えば最初から彼はそうだった。凪を無理やり抱いて、脅して犯罪だとわかっていながらも、凪に近付けたことを喜び、抱けたことに幸福を抱いた。
 歪んでいるが、何かをしてしまった失敗よりもそれによって得た功績に幸せを感じるのだ。

 だから、凪がデメリットだと思ったことも、千紘にとっては少しでもメリットがあったらそれでいいこともある。
 凪とはまるで考え方が違うが、凪にはないものを千紘は持っている。

 そんな千紘にとって、千草によってもたらされた一言で凪からの信頼を一気に失ったのは相当堪えたはずだった。
 たった少しの幸せのためになんだってした男が、二度とこないかもしれない連絡をただ待ち続けたのだ。

 凪はそっと体を起こして、数回頬を撫でると身を屈めた。凹凸のあるそこに唇を寄せ、キスをした。

「千紘、ごめんな」

 凪はそっと呟き、優しく髪を撫でた。
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