ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

雪村こはる

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甘えん坊

07

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「一緒に……行く?」

 千紘は断られる覚悟をして凪に聞いた。もしかしたら1人でいくつもりでいるのかもしれないし、いい旅館でもあったら千紘に紹介してもらおうと思っただけかもしれない。

 過度に期待をすれば、想像と違った時にひどく落ち込むだろう。だから、保険のために最悪の事態も考えて慎重に言葉を選ぶ必要があった。

「……休み取れんの?」

 凪は手を下ろして視線だけ千紘に向けた。無表情だが、休みが取れるなら一緒に来てもいいけどと目が言っているようだった。

「と、取れるよ。俺、自分のお客さんだけだからシフト管理は自分でしてるし。来月までは予約いっぱいだけど、再来月はどっか空いてるなら連休にすることもできる」

「再来月か。まあ、そのくらい期間があった方が宿も取りやすいだろうな」

 さらりとそう言った凪に、千紘は目を見開いた。

「じゃ、じゃあ……宿は俺が取るよ」

「千紘が? ……わかった」

 凪は暫く考えていたようだったが、素直に頷いた。凪と一緒に住むようになってから、一緒に入浴することはなかった。
 しかし、温泉に行くとなったら一緒に入ることになるかもしれない。などとこれもまた少し期待する。

 他人の目がある大衆浴場なら、千紘に何かをされる心配もないし、一緒に入浴してくれるかもしれない。もしくは、客室風呂付きの部屋を取れば……と考えていた。
 ぼーっとしているとゴロンと向きを変えた凪が、千紘の方を向いて顔を寄せた。それからぎゅっと抱きついてきたものだから、千紘は咄嗟に両手を持ち上げて降参の姿勢をとった。

 迂闊に触れたりしたら、また凪が機嫌を損ねるかもしれないし、出ていくと言うかもしれないからだ。
 千紘はそのままじっと身動きを取らずにいた。

 えーっと……。これはどういう状況なんだろう。凪が膝枕してきたことさえ理解が追いついてないのに、抱きついてくることなんてある?
 まさか、見た目は凪だけど中身は違う誰かに入れ替わったとか!?
 そんなファンタジーみたいなことある!? いやいや、でも今までの凪なら絶対に自分から抱きついてきたりしないし……。

 千紘はこのままどうしたらいいのかわからないまま、頭の片隅で泊まる宿のことを考えていた。
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