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序章

わかっていた結末。

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(あぁ…やっぱり勝てなかったか……)

 飛空挺が見えていた大穴を眺めて大魔将軍ーーもとい自分はそう思った。
 [この姿に]なってから早二百と数十年。魔界で頑張って活躍し、魔王に気に入られ幹部となり、気づいたら魔王の右腕扱いになっていた。
 魔界からこの世界に進行してから聖女を拐ってこいという魔王のありきたりな命令を受けて小さな村に行けば見るからに白金の髪の美人を見つけ、村人達が聖女であると崇めていた。
 部下達から一気に村を潰して聖女を拐いましょうと言ってきたががつく自分はそういうのはあまりやりたくないので人がいない隙を狙った。
 あからさまに夢見る少年と2人っきりのところに自らが出てあっという間に少年を人質にとり聖女からついてこさせることで傷つけることなく聖女を獲得することに成功した。
 唯一の誤算は無駄に命は取らないと部下に気品さを伝えるという理由で落ちても大丈夫そうな海の方に向けて少年を投げ飛ばしたことだろうか。
 まさかその少年が魔族全般に効果絶大の聖剣を手に勇者の道を歩くことになる王道展開が通用するとは思ってもみなかった。
 しかも後々になって護送していた聖女も勇者達は救ってみせたと聞いてこのままではまずいと思った。
 だから二度目に聖剣を奪って長生きしようと実力の半分の力で圧倒的に攻めた。しかし元聖騎士団長で勇者の師匠がまさか命を燃やして使う聖属性の技を出してこちらを消耗と時間稼ぎをされたのであと一歩で退かざるおえなかった。
 四天王的存在達から陰口を叩かれても気にはしなかったが、部下達からの心配の声には応えたいと思ったのでとりあえずいくつか街を占拠し島一つも支配下に置いてから三度目の正直に挑んでみた。
 ちょうどその時に聖剣が扱えなくなっていたので勇者の仲間を蹴散らし聖女を拐って去ろうとしたのだが錆びた聖剣で一人戦おうとする勇者がいた。 
 全く機能しない聖剣を何度も弾き返し魔法でボロボロにしてから大魔将軍として罵りの言葉をぶつけて心を折ろうとした。
 そしたらお決まりの立てない者達の声援からの勇者大復活。おかげで百年ぶりくらいの痛みもといダメージを受けた。真の覚醒をした聖剣に手下が一瞬で消されたので危機感から撤退し魔界で魔王に報告しお叱りの後で門を守る任務を与えられた。
 結果はご覧の通り、悪役はヒーローに倒されてしまったという話だ。
 これがアニメやゲームならオープニング曲のラストパートかオーケストラが挿入歌として流れていたに違いない。

(あいつら、俺の言うことちゃんと聞いてくれればいいんだが……)

 ふと自分の配下達を思い出して心配になった。
 魔空城に勇者達が迫っていると聞き自分は力のない者達を幹部的ポジションの者数名に預け城から脱出させていた。
 皆からは我々もと訴え出た者達がたくさんいたが説得して城の下にある大森林に転移させ城内は自分の召還したモンスターのみにしていたので勇者達にやられても心が痛くならずにすんだ。

(そういえばあの子めちゃめちゃ泣かせちゃったな。女を泣かせる上司にはあまりなりたくなかったんだけど。)

 さらに思い出したのは自分の右腕というべき相手。小さい頃から世話をしていたせいか気づいたら惚れていたことを彼女は明かしてくれたが、その気持ちをはねのけて城から強制的に脱出させた。
 もう謝罪出来ないことは心残りになるかもしれないし、もしかしたら無茶をしないかと他の部下達よりも大いに心配してしまう。

(ま、いい人生だったことは変わりない……下半身以外は。)

 最後にそう思うと自嘲的な笑みを溢し崩れる天井を眺める。
 勇者にライバルと認めてもらえて終わるなら前の人生以上に有意義な年月を送れたということだ。最高の悪役として活躍することが出来たのであれば次の人生は平凡なものになれればいいかもしれない。
 だからこそ意識が途切れる前に拳を空に向けて言おう。

「我が生涯に、一片の悔いなし!…なーんてな。」

 瓦礫の音にかき消されようと言い切ってから拳を下ろし自分の意識はそこで真っ黒になった。
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