漆黒の大魔将軍は勇者に倒されたはずでした!?

武家桜鷹丸

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第四章 予想外の使者。

死竜と凍花と乙女心。

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 トワダ森林の件を終わらせた我々は大黒林に帰還した。
 出迎えてくれたパーサー達に異常がなかったか尋ねれば一回密猟者の侵入はあったが全て迎撃したとのこと。
 何故分身体エイムから報告がこなかったのかを聞けばパーサー達にやられる輩ならば我に報告する価値は無しと判断したからと本体が証言した。
 本音を言うと報告してほしかったが彼らの優しさを汲んで今後はホウレンソウを守るよう軽い指摘だけで済ませた。
 それから二ヶ月の月日が流れこの北の大陸に温暖な空気が流れる季節が訪れた。
 平原は緑がちらほらと見え、木々には新芽が現れる中でまた一つ新たな建築物が誕生した。

「これは、すごいです大魔将軍様。ガラス張りだと言うのにこんなにも暖かいなんて。」
「そうであろう。ガラスを逆に厚くさせさらに二重にすることによって外からの寒気を軽減させているのだ。」

 住宅地帯から少し離れた森の一部を開拓したところに作り上げたのは鉄の骨組みとガラスを合わせて作った温室である。さすがのドワーフも初めて見る設計だったらしく何度か失敗はあったがエイムやケット・シー、クー・シー達の協力もあって完成することが出来た。
 さらに温室の表面に我が物理耐性の魔方陣を付与させることで魔獣が体当たりしても大丈夫なようにしておいた。

「ただ、少々熱源が気になってしまいますね。」
「そうか?こう見えて手を出してこなければ襲ったりしないから安全であろう。」

 我とパーサーの視線の先には温室を暖める為の石窯がある。本来ならここに薪をくべて温度を調節したりするのだがパーサーは中にいるものに苦笑いを浮かべた。
 窯の中にいたのは青白い炎を纏った人間の頭蓋骨が置物のように置かれていたからだ。
 この燃え盛る頭蓋骨の名前はシャドウフレイムと言いアンデッド系だが幽霊ではなく実体のあるちゃんとした魔物だ。
 先ほど話した迎撃した密猟者の死体を我が死霊術で利用してやったのだ。
 こいつならば一定の温度を保ってくれるし、薪を消費する必要もないし煙も出ない。まさに温室にとって実にエコな魔物なのである。
 まあ見た目に関しては慣れてもらうしかない。
 ともかくこれで季節問わず畑作が出来るので新設した農業班に託すとしよう。

「必要とあらばまた同じものを建設することも伝えておけ。」

 パーサーに一言伝えてから我は飛んで森の外に出れば身体を北西に向ける。
 建設が一段落したしいよいよゾドラの蘇生に向かおうと決めたのである。
 何故我が倒された後でゾドラが極寒の冬島に行ったのか。どうして凍結の状態異常になっているのか。
 全ては現地に迎えばわかることだ。

(…エイム、我のところに来い。)

 【念間話術トランシーバー】で我が呼べばすぐに森から飛び出す形でヒト型のエイムが背中に鳥の翼を生やしてやってきた。
 ただ格好がまたジャージ姿なので少し似合わないと思ってしまう。

「なあにマスター?お仕事?」
「うむ、これからゾドラの蘇生に向かう。同行してくれ。」

 我が同行を頼むとエイムはうへえと舌を出して嫌そうな顔をする。

「ゾドラはまだ生き残っていたの?てっきり聖女に浄化されていると思ってた。」
「そう言うなエイムよ。我にとっては嬉しいことなのだ。」

 今思い出したが、そういえば魔界にいた頃エイムはゾドラのスキルを修得出来ないかと一部を捕食してみたのだが本体には合わなかったらしく吐き出したことがあった。
 あと何かでよくちょっかいを掛けていたようなのだがそこは思い出せなかった。
 ともかくここで時間を無駄遣いするわけにはいかないのでエイムに追従させて我はシレトコ島へと飛んだ。
 北西へ真っ直ぐ進み海の上を飛んでいけば真っ白な山が存在する島が見えてきた。
 海水の影響で雪がない砂地に着地してから改めてゾドラがいる場所を確認する。
 平面図で見たゾドラがいるのはちょうど山のど真ん中。しかし遠目ながら山の頂上には姿が見えなかったのでいるとしたら山の中ということになる。
 だがここまで来てもやはりわからないのはゾドラが何故ここで凍結の状態異常でいるのかだ。
 ホローゾンビドラゴンは聖属性と光属性が有効、火属性が微有効。凍結以外の状態異常無効がその個体の特性。
 故に世界侵攻時代はなるべく北側には行かせない配慮を密かにしてあげていた。 
 なのに我が敗れてから半世紀経って何故わざわざ冬島で凍結しているのかはきっと理由があるはずだ。

「…あ、見て見てマスター。こんなところに銀魔草ぎんまそうが生えてるよ。」

 我が黙考しているとエイムが何かを見つけて歩き出し教えてきたので向かう。エイムの隣まで来て見れば菊のような形の花がまるでそのまま凍ったかのような色で生えていたがその花を見て我は微笑する。

「ふふふ、残念だがこれは銀魔草ではない。この世界の花で名は確か白銀草しろがねそうだったはずだ。」

 我が言えばエイムはどこが違うのだろうかと首を傾げてみせたので説明してあげた。
 魔界にある銀魔草はまるで氷で作ったかのように硬く花は菊のような形ではなく薔薇に近い形であることと葉っぱは白銀草のような丸みがなくてギザギザな形をしているのだ。

「わあ本当だね。昔銀魔草を使って的当てゲームしたのが懐かしいよ。」
「うむ、あれは実に楽しい余興であった。」

 何に向けては敢えて言わないがエイムと一緒に魔界での思い出の一つにしみじみしていれば複数の足音を検知して山側を見れば白い毛並みの身体は細いが大型犬並みの狼の群れが姿を見せる。
 確か個体名はフロストウルフで冒険者達の間では上位に入る危険度の魔獣だ。

「…なあんだ。ゾドラがいるからもっと面白い魔獣がいるかと期待したんだけど。」

 だが我とエイムにとっては大した相手ではない。なのでここはエイムに任せると命令してあげた。
 受けたエイムは手を挙げて元気よく返事をしてから前に出る。フロストウルフはエイムに狙いを定めて扇状に囲むと一斉に飛び掛かろうと跳躍した。
 だがその判断は早計であった。エイムは一度腕を交差させてから左右に広げれば現れたフロストウルフの数だけ火属性の魔方陣が空中に展開され火球が放たれた。
 火球は空中にいたフロストウルフに命中しその身を燃やしてやった。
 跳ばずにいたフロストウルフは火にやられた仲間を見て恐れ一目散に去っていく。視界からいなくなったのを確認してから我はよくやったと頭を撫でて誉めてあげればエイムは無邪気な笑顔で喜ぶ。
 場所を再確認したので目的地へと迅速に向かう為空を飛んで森の上を通りすぎ山の麓で止まると軽く山を一周しながらゾドラが通れそうな大穴がないか探す。しかし麓ら辺には大穴は見つけられなかった。
 山の中にいるのに周りに穴はない。となれば答えは簡単だ。
 そう思って山に沿うようにして上昇し山頂まで着けば案の定見つけた。
 元は火山だったのであろう山頂にはぽっかりと白い大穴が出来ていた。この大穴ならばゾドラも降下して入ることが出来る。そしてまだ距離はあるが我とエイムにとって見覚えのある背中と翼が見えたので急降下した。
 そのままゾドラの前に着地すると改めて見た。
 アンデッド故に一部から骨が見える身体とボロボロの翼膜の翼、それでも顔はドラゴンとしての威厳あるものである。
 ただ今はまるで氷像のように立ったまま凍結した状態でいた。

「ねぇマスター、ここいっぱい白銀草が咲いてるよ。綺麗だね。」

 エイムの言葉に周りを見れば花畑とばかりに白銀草の花が咲き誇っていたのに気づかされる。理由はわからないがこの中は白銀草が成長しやすい何かがあるのかもしれない。

「久しぶりだなゾドラよ。今蘇生してやろう。」

 早速眷属蘇生を使おうと右手を前に出して歩み寄ろうとした。
 のだが、エイムの呼び声に反応して真上を見る。直後に氷塊、いやが降ってきて【漆黒の障壁】が受け止めてくれた。
 雪崩だとしても我だけに向かって、というか狙って落ちてくるなんて低確率なことが起きることはそうそう無かろう。

(こんなことが出来るのは、あいつくらいか……)

 とりあえず砕いた破片がゾドラに当たることを懸念し氷を魔力の光線で消し飛ばしてから空を見上げればそいつはいた。
 氷のように輝くポニーテールに民族衣装のようでありながら場違いなほどの薄着な装い。
 そして女性のヒト型であるが真っ青な肌色が人間では無いことを伝えていた。

「いるかもしれないと思っていたが自ら姿を見せるとはな。氷の武人セルシウスよ。」

 相手を見ながら我は名を口に出す。
 氷の大精霊セルシウス。氷結地帯に現れるこの精霊は武人の名が付けられるほど好戦的な存在だ。

「消えろ魔族め!ここは静寂と聖なる領域!邪なるお前達が来ていい場所ではない!」

 セルシウスは言うと今度は周囲に鋭い先端を持つ氷柱を出して飛ばしてきた。
 またスキルで防いでやろうと思ったのだが、我は飛び越えてエイムが出ると頬を膨らませ口から炎を吹いて氷柱を溶かしてみせた。

「マスター、デザートもいただいていいかな?」
「構わぬ。だが相手は武人だ。故にで勝利してみせよ。」

 エイムの提案を了承してから趣向を求めて命令すれば元気良く返事をしたエイムが変身する。オレンジ色の胴着に鉢巻き、両手には黒い革の籠手を身に付けたどこかで見たことあるような服装に変身すれば構える。

「さあ勝負だ!セルシウス!」
「私に格闘で挑むとは!愚か者め!」

 氷の武人と呼ばれるだけあって体術で相手されることに気持ちが乗ってくれたようで格闘ゲームさながらの戦いが始まった。
 と言っても時々氷属性と火属性の魔法拳というのも混じってはいるが。

(さてさて、観戦している場合ではないな。)

 セルシウスくらいならエイムが負ける可能性は低いので心配せず我は改めて目的達成に動く。
 ゾドラの足元に歩み寄り右手を当てれば【眷属蘇生】の準備に入る。するとエイムの時と違い目の前に眷属に関する通知がボードとして表示された。

(む?ゾドラが進化可能だと?)

 通知は眷属が進化することが出来るというものだった。
 この場合【眷属蘇生】の時にこちらが任意で進化させてから蘇生させることが出来る。
 まあ出世みたいなものなので我は当然蘇生と同時に進化させることを選択すればドラゴン族なので進化先が名前で枝分かれする。

(デスドラゴン、ニーズヘッグ、黒龍人こくりゅうじんの3つか……)

 どの個体も我は知っている。
 デスドラゴンはドラゴンゾンビの最上位で人間なら一息吸えば即死する障気をスキルに持つ。
 ニーズヘッグは邪竜と呼ばれ火属性と闇属性を合わせた邪炎じゃえんと呼ばれる力を使うドラゴンの最上位の1つだ。
 そして黒龍人、これは特殊な存在で説明するには情報が多すぎるが上と同じくドラゴンの最上位である。

(うーむ、どれにするか。)

 どれも素晴らしいステータスとスキルを持った進化先に我は悩む。
 デスドラゴンは攻城戦において無敵と言わざる力を持つがそれは半世紀前の話で今はエルフとドワーフがいる大黒林に連れていくのは危ない。
 ニーズヘッグは光属性に耐性があるし邪炎は強い。だが今のゾドラの一回りも大きくなることは大黒林から大きく出て目立ってしまいまた冒険者ギルドに目をつけられてしまう。
 最後に黒龍人だが実は話をいろいろ聞いているだけで我本人が一度も見たことがない。人という字が付くので恐らくリザードマンみたいなヒト族に近い容姿なのかもしれない。

(となれば今の情勢を考えてここは黒龍人にすべきであろうか。)

 悩みに悩んだ結果、ここは大黒林に連れてきても大丈夫そうな黒龍人を選択することにした。
 それがまさかゾドラのであったことはすぐにわかることになる。
 人差し指でボードをタッチして黒龍人を選択し最後に改めて【眷属蘇生】を唱えれば凍結したゾドラの身体全体が輝き出して洞窟内が眩い光に包まれた。


***


 ーー…私はかつて高貴なるドラゴンであった。
 しかし犯した罪により私は同族に殺され地に堕ちた。
 だが運悪く障気の溜まり場に落ちた為に生ける屍となって復活してしまった。
 身体に空いた穴から漏れ出る障気は私の好きな小動物を苦しめ、草花を枯らしてしまう。
 だから私は先の戦いによって作られたであろう大穴に入っていつ終わるかわからない時を過ごすことにした。
 がくるまでは……

『えへっ、えへっ、すごい障気だねマスター。』
『うむ、穴の中だからな。外に障気が出にくいから溜まってしまうのだろう。』

 穴の出口から子どもと大人の声が聞こえてきたのに久しぶりに顔を上げれば彼らが宙にいた。
 1つは漆黒の重そうな鎧から魔族かダークアーマー族であろう。もう1つはそいつの肩に乗っているオレンジ色のスライムであった。

『ほお、お前が障気の元凶か?これはまた大物だな。』
『…何ですかあなた方は?ここは私の巣です。今すぐ立ち去りなさい。それとも私を倒しにきたのですか?』

 そう言って私は威嚇した。無意識に身体の穴から障気を吹き出して周囲の濃度を高めていく。弱い魔族や魔獣ならばこれだけで苦しむことになる。

『ふむふむ、身体の穴から障気が漏れているのか。ドラゴンゾンビというのは難儀な生態なのだな。』

 しかし彼は平然と立ったままこちらを観察してきたではないか。
 さらにはこちらの周囲をぐるりと一周して元の位置までくるとこちらを指差して言ってきた。

『おい、穴から障気を出すのは任意か?』
『えっ!いや、これは無意識に出てしまうので。』
『なるほど、では穴を塞げばある程度障気は抑えられる可能性があるのか。』

 鎧の方が腕を組んで何か考える素振りをしてみせる。それから肩に乗っているスライムとこうしたら塞げるだのああしたら意味ないだの私の前で勝手に話し合う。

『よし、決まりだ。また今度来るからな。』

 最後に何か決まったかと思えば鎧とスライムはまたくると告げて飛び去ってしまった。
 全く意味がわからないが言ってきたということは本当にまた私の前に現れるのだろう。
 私は悩んだ。関わりたくないならまたやってくる前にこの穴から出て別の巣を探すべきか追い返す為に戦うべきか。だがあの鎧は私の障気をなんとも思っていなかったように見えた。
 今のところ戦って勝てるかどうかは少しわからない気がした。


『ーー…おはよう。まだいてくれてよかったぞ。』

 …結局二日経ってまた鎧とスライムがくるまで私は答えを出せずに終わってしまった。

『また来たのですか?一体何が目的です?』
『うむ、お前の身体から出る障気を抑える方法が出来た。』

 問いかけに予想外の返事が返ってきたことに私は驚く。この身体から出る障気を抑える術をこの鎧とスライムは二日かけてわざわざ見つけてきたのかと。
 驚いている中で鎧は私に痛覚が存在するのかを尋ねてきた。
 今の私は生きる屍。熱いや寒いは感じるが痛みに対して全くとは言わないが疎くなっているのは確かなのでそう言ってやった。

『ならよし。だったら。』

 鎧は意味深なことを言ってからスライムに頼むと肩から地面に降りてから急に膨張して鎧と同じくらいの大きさになる。
 それから鎧は何か唱えると黒くて薄い楕円形が生まれそこに手を入れると中から白木のようなものを出す。しかも枝ではなく丸太を次々と出してから二つをスライムの中に投げ入れてやった。
 丸太を取り込んだスライムは上に左右にと伸縮を繰り返していき最後にチキーンッ!という音を出してから吐き出す形で出してきたのは膨張する前のスライムくらいの大きさの点々と穴が空いた白い球体であった。

『な、何ですかそれは?』
『これはな、空気を清浄にさせる木を圧縮させたものだ。』

 鎧が言うには丸太の正体は魔界のとある植物系魔族の群生する地域にある樹木でなんと毒気や障気を吸収して周囲の空気を清浄化させる性質を持っているのだとか。
 だから植物系魔族は障気のあるところにこれを植林して壁を作ったりしていると語ってくれた。

『穴を塞いでも漏れたら意味ないと思ってこれにしたんだよ。なんだっけ?確かショウシュウザイって言うんだって。マスターが考えたんだよ。』
『ハッハッハ、ちょっと違うぞエイムよ。障気を吸い込むから消障材しょうしょうざいだ。いや、消気材しょうきざいも悪くないな。』

 球体の名前で何故か悩む鎧に全く敵意を感じれない。しかもまあいいかと後回しにして鎧とスライムは次々に同じ球体を生産していった。
 二体の周囲いっぱいに球体が生産されると鎧は次に黒い楕円形から袋状の網を出して球体を入れていくと口を縛って鎧が肩に担ぐ。

『さて、何処に設置するべきか。』

 網を担いだまま宙に浮いた鎧はまた私の周囲を回って身体の穴を観察してくるのに何故か忘れていたはずの恥ずかしさを覚えた。
 見回してから鎧は背骨が露出したところにこちらの許可なく網を結びつけた。
 しかも動いて落ちないようにと黒い針金でしっかりとだ。
 すると身体に漂っていた障気の臭いが薄れたのを感じて私はもう効果が出てきたのかと驚く。

『わあっ、一気に減ったねマスター。』
『うむ、これで外に出ても大丈夫であろう。』

 向こうも障気が減ったことに気づいているらしいがこれで私が外に出れるみたいなことを言い出してきた。

『ちょ、ちょっと待ってください。私を外に出してどうするつもりですか?だいたいここまでしてあなたは私に何をさせたいのです?』

 堪らず問いかけた私に鎧はスライムと見つめ合ってからしまった!?という反応をしてみせた。
 どうやら私の障気を抑えることに注力して本来の目的を忘れていたようだ。

『おおそうであったそうであった。まだ名乗っていなかったな。我は黒の魔将軍。魔王の幹部の一人だ。肩にいるのは相棒のエイム。目的はお前を雇いにきた。』
『や、やとう?』

 初めて聞いた言葉に聞き返すと魔将軍なる鎧は改めて私を眷属にしたいと申し出てきた。
 聞いた私は何故と思った。それはどうして自分を眷属にしたいのかもあるが何故力ずくで眷属にしようとしなかったのかが強かった。
 この魔界は弱肉強食。眷属にしたいならば力を示して従属させた方が早いはず。
 なのにこの魔将軍はわざわざ私の障気を抑える苦労をしてまで交渉を選んできたことに私は理由を尋ねた。

『我は無理矢理があまり好かない偏屈な魔族なのだ。それにお前も戦いが嫌いだからここにずっといるのだろう?その心意気が気に入ったのだ。』

 魔将軍の返事に私はまた驚かされた。
 まるでドラゴンゾンビになる前の私をどこかで聞いたかのように自分の性格を当ててみせた彼に冷えきっていた胸に熱が戻ったかのような幻覚を感じた。

『お前には主に敵の弱体化を狙った行動を頼もうと思っている。それに何か要望があれば今聞こう。どうた?眷属になってくれないか?』

 魔将軍の願いにここまでされて断らない理由がなかった。
 しかし向こうが言ってきたので1つ要望を伝えてみることにした。

『でしたら、私を元のドラゴンに戻せる方法をください。探して見つけてください。』
『なるほど、承知した。今は無理だが合間に探して必ずお前を元のドラゴンにしてやろう。約束だ。』

 迷うことなく魔将軍は返すと片手を差し出してきた。
 それが私にとって初めての握手だったので首を傾げてしまうが魔将軍は爪を前に出せと言ってきたので言う通りにすれば彼は私の爪を掴んで握手してくれた時はしっかりと覚えている。
 こうして私はゾドラという名前での眷属になりホローゾンビドラゴンに進化して仕えることになった。
 進化したことで全てとはいかないが体内の障気をコントロール出来るようになったので旦那様の命令等で遺憾なく発揮して活躍してみせた。
 私が敵の集団を弱体化させ、旦那様が攻めて降伏させる対籠城戦の作戦は素晴らしいと称賛の言葉を貰えたことは私にとって誇りを取り戻せた瞬間でありました。
 そんな日々を過ごしたある日のこと、休暇というものをいただいて休んでいた私の元に突然旦那様がやってきた。

『ゾドラよ。今日は土産を持ってきたのだ。』
『お土産?旦那様自らがですか?』

 まだ戦時中だというのにと思ってしまう私に旦那様が見せたのは三輪の花でした。
 銀魔草という花で、私が苦手な氷結地帯に群生している植物らしい。
 確かに私は花が好きです。でも私の障気は草花を枯らす。旦那様が見せた銀魔草も離れているので花の細かい形がわからない。

『近くで見てみたいのだろう?』

 旦那様はそう言うと花を持ったまま宙に浮いて私に近づいてきた。
 それでは旦那様に影響はなくても障気で花が枯れてしまうと思って止めようとした。
 でも私の鼻先まで近づいてもその銀色の花は枯れなかった。

『ふふふ、不思議だろう?これはな、地面から引き抜くと形を保ったまま固くなるのだ。偶然これを見つけた時、すぐお前に見せたくなったのだ。』

 それは旦那様の分け隔てない優しさ故の言葉であろう。
 だけど私にとっては久しぶり過ぎるときめきを受けたのである。さらに銀魔草を頭に生えた角に添えてくれたことがより想いを強くさせた。
 ヒト族の世界に侵攻した時も大魔将軍となった旦那様に頼られる度にときめきは増す一方であった。
 だけど、私の想いは伝えられることなく片想いで終わった。
 大魔将軍が勇者一行に敗れた。
 南の島で聞いた私は絶望した。ああ、また大切な方が私の前から去ってしまったと。
 二度も喪失感を味わった私は生きる意味を失った気持ちに駈られ最北にある冬島へと飛んだ。
 旦那様の命令で海上を警戒飛行していた時期にこの島で見かけたものがあるからだ。
 銀魔草に似ている花が咲いている島で私は朽ちるまでここにいようという想いが天に通じたのか元火山だった山の中に咲き誇る場所を見つけた。
 さらに現れた私の前にセルシウスまで現れ運を使いきれたと悟った。

『セルシウス、私はあなたに御願いしたい。私を物言わぬ氷像にして下さい。終わらない氷結の幻想を下さい。』

 旦那様の消えたこの世界で私も消えるまでここで幻想を見続けよう。そう思って私はセルシウスにお願いした。
 どうか、本来の私の背中に旦那様を乗せて大空を羽ばたく幻想が見れますようにと……


***


 ……エイムの時と同じようにまたゾドラの思い出が見えた。
 何故ここで凍結していたのかは喪失感からだったことに我は申し訳ない気持ちになった。
 本人から聞いた話だがゾンビになる前のゾドラにはつがいがいた。
 だがその番はゾドラより若いドラゴンと浮気をしたのだとか。しかもゾドラよりも先に若いドラゴンが身籠ったことが逆鱗に触れなんと両方を殺めたのだ。
 ドラゴン族において同族殺しは重い罪な為にゾドラは討ち取られ地に落ちドラゴンゾンビになったというのが顛末である。
 だからゾドラは愛する者を失ったことに深く傷ついていた。
 まさか我のことも番と同じ目で見ていたとは知らなかったが。
 【眷属蘇生】と進化が終了したのか光が氷像の中心へと収束していくと最後に氷像がひび割れて崩れ落ちる。
 宙に浮いた光の玉の中にヒト型のシルエットが見えたので予想が当たったと思った。
 光の玉はゆっくりと我の元に移動してから弾けて新生したゾドラが姿を見せる。
 はっきり言おう、今の種族でなかったら間違いなく顔を逸らしていたと。
 前世で一、二回しかいかなかった高級風俗級の美女が体育座りの態勢で宙に浮いている。
 しかし背中まである黒髪から後頭部へと生える角、褐色の上腕と脚部側面、頬あたりに見える鱗はドラゴンとしての名残であろうか。
 だがエイムと同じく裸の彼女にこのまままずいと我は倉庫から魔術師の輪イリュージョンリングを出して体型からセットDに設定して本当にマジックショーさながらに空中にいるゾドラへとくぐらせる。リングを通ったゾドラの身体には濃い赤色のドレス型の装備が纏われたがミケラよりもある部分がより強調される形になってしまった。
 そんなゾドラを優しく横抱きに受け止めその顔を見れば眠っていようとも凛々しく感じられた。

「そこだショウリュウレッパー!」
「うわっ!?」
「からの~!シンリュウケーン!」

 背後でもどうやら勝敗が着いたのを聞きつつ我はゾドラに呼び掛けてみた。
 褐色の女性って神秘さがあるから好き!なんてことを前世の若い時代に同僚が言っていたのを聞いたことはあったが間近で見ると今ならその意見に賛同してしまうかもしれないほど美人になった彼女が反応したのは数回呼び掛けてからであった。

「……ゾドラ、貴様もしかしてもう起きてるのではないか?」

 我のその一言にゾドラの眉がピクッと動き勝手に首が動いて顔を他所に向けた。
 再度質問してから待てば顔をこちらに向けて唇を尖らせてきた。
 これはあれか?眠る姫を起こすには王子の口づけでというやつか?
 そういうのは口がない我にやるべきではないだろう……

「はいはーい、起きなゾドラー。」

 そこへ横にきたエイムがゾドラの顔を両手で挟むようにペチペチと叩き始める。

「いた、いたた、痛い!痛いっ!痛い痛いっ!や、やめなさいエイム!腐った息を吐くわよ!」

 次第に叩く強さが増すことに耐え兼ねたゾドラがクワッ!と上体を少し起こして言えばエイムは慌てて距離を取る。

「それはやめてよ!あれ受けたらどんなに頑張っても一週間は臭いが取れないんだから!ていうかゾドラもいい加減マスターと結婚したいという願望は諦めたらどうなのさ?」
「何を言ってるのです!私の為に枯れない花を持ってきてくれた旦那様に惚れない理由がどこにあるのです!こうして生まれ変わったからには絶対に婚約したいと思うのは当然でしょう!」

 …なんか主の前で眷属が口喧嘩を始めてしまった。
 というかエイムはゾドラの好意に気づいていたから態度が違っていたのか。まあ腐った息を喰らった後でならそうなるのかもしれないが。

「双方、そこまでにしておけ。」

 我の言葉でピタリとエイムとゾドラの口喧嘩が止まる。ゾドラを地に下ろし腕を組めば彼女はすぐに片膝を着いて忠誠を立てる。

「まずはゾドラよ、半世紀経って再び会えたこと。我は嬉しく思うぞ。」
「勿体なきお言葉です旦那様。私も旦那様が復活してくれたこと、約束を忘れずこうして新しい姿をお与えしてくれたことに感謝します。」

 ゾドラの返事を聞いてから我は彼女に自分達の現状を話してあげた。
 聞いたゾドラはなるほどと返してからあることを提案してきた。

「旦那様、それなら今の各国の状態を調べた方が良いと思います。」
「各国?大帝国トチョウ以外のこともか?」
「はい、そしてまだ残っているのならばですがならば詳しく知っているかと。」

 ゾドラの言うことも一理ある。我は勇者がいるトチョウにばかり気にしていたがこの大陸には侵攻前からいくつかの大国が存在していたが半世紀経った現在はトチョウを含めて三つの国が拮抗している。
 そして新たな事実としてどうやら半世紀経ってもまだ魔族がいるような感じに言ってきたゾドラにそれは何処かと尋ねれば顔を向けて答えてくれた。

「影の都、シコクです。」
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 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

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